こういうのが見たかった―『花咲くいろは』

ああ、僕はこういう作品が見たかったんだ。つまり、一生懸命な女の子が見たかったんだ。『花咲くいろは』の第一話を観て、そのことに気付いた。特殊能力も、バトルも、いらなかったんだ、と。

公式サイト:

突然の夜逃げ、突然の告白、そして突然の別れ――。
今までとは違う自分になりたかったという夢は、急に現実となりました。
私、松前緒花の平凡な日常は1日にしてドラマチックな展開を迎えたのです。
通い慣れた、それでいてあまり愛着のない街を出て、
話したことや会ったこともない祖母の元で暮らすのです。
大正浪漫あふれる温泉旅館・喜翆荘(きっすいそう)。
そこで出会う人たち。
花の芽が地上に出て新たな世界を知るように、
私も、今までとはまったく違う、新しい生活を始めます。
それは辛いことかもしれません。
でも、めげても、くじけても、泣きじゃくっても明日は来るんです。
だからこそ私は頑張りたいんです、そして輝きたいんです。
太陽に導かれるよう咲く花のように
いつか大輪の花を咲かせられるように……。

家庭の事情により、家族とも友達とも別れて、温泉旅館に住み込みで働くことになった女子高生。そんなNHKの朝ドラに出てきそうな主人公の姿を見ながら、遥か昔の自分の姿を重ねていた。大きな期待の中に宿って決して消えることのない一抹の不安。長時間の集団行動の中で感じる限りなく孤独。

そういう過去を思い出させるものの、観ていて暗くなることは決してない。それはきっと主人公がどこまでも前向きだからだろう。彼女が成長することを感じさせてくれるからだろう。世界観もしっかりしていて、人物にもリアリティがあり、美術が綺麗で、キャラクターデザインもかわいい(岸田メル絵の再現度では、某アニメノチカラを軽く凌駕)。音楽は…ちょっと微妙かもしれない。

思うに、『君に届け』の黒沼爽子も、『ストライクウィッチーズ』の宮藤芳佳も、『けいおん!』の平沢唯も、第一期は「アイデンティティの模索」があった。「自分はほかの人に受け入れられるのだろうか」「自分はみんなの役に立つのだろうか」「できること、夢中になれること、大切なことが見つかるのだろうか」と。

アイデンティティの模索ゆえにいずれも第一期は傑作となり、アイデンティティが確立した二期は相対的に輝きを失ったのだ(あくまで僕にとって)。

『花咲いろは』が2クールを通じて傑作になるとすれば、主人公・松前緒花が惰性に流されることなく、自分自身を見つめて成長できるかどうかにかかっている。そして実際にそのようになる可能性は大いにあるだろう。いや、あえて予言めいたことを言えば、自分にとっては今期一番の傑作になる予感。

いずれにしても毎週日曜日の夜の放映が楽しみだ。この作品が「サザエさん症候群」を助長するのかそれとも緩和するのかは分からないけれども。

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