きっといつか奇跡が―『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』

僕が19で君が生まれて 君が19の時僕と出会って
(『G.o.a.P』ムーンライダーズ

それなら、同じ19歳で出会っていたら、僕らは恋に落ちただろうか―
皺が増えて体型が崩れても、年をとることはマイナスばかりではない。重ねる時間は人の内面を豊かにする。「アンチエイジング」だの「いつまでも若く」だの叫んだところで、僕らはいつか死ぬべき運命なのだ。そのことを忘れてはならない。メメント・モリ

ベンジャミン・バトン(ブラッド・ピット)は老人で生まれ、年を重ねるにつれて若返り、記憶を失って最後は赤ん坊になって死ぬ。他の人はどんどん年をとっていくのに。

彼は孤独だ。出会う人とは別れなくてはならない。心を通い合わせたデイジー(ケイト・ブランシェット)とさえも。F・スコット・フィッツジェラルドの数奇な短編小説を、デヴィッド・フィンチャーは哀しくも味わい深い作品に仕上げている。

人は誰でもベンジャミン・バトンだ。孤独に生まれ、数々の人生と交差し、最後は孤独に死ぬ。若返ろうが、年老いようが、そのことは誰にでも共通する避けられない運命であり、それこそが人生の本質だと。フィンチャーはそう言いたげだ。

若返ることを恐れるブラッド・ピットと、老いることを嘆くケイト・ブランシェットが同年代となって並んだ奇跡の瞬間こそ、この映画のハイライト。そんな美しい瞬間が、きっと誰の人生にも訪れる。死ぬ前に。僕はそう信じている。

(あとがき。クリント・イーストウッド強化月間のはずが、デヴィッド・フィンチャー祭りになってしまった…)