セカイノミカタ〜『新世界 国々の興亡』

朝日新聞はダメだ。だが、船橋洋一はいい。そう思っていた時代があった。しかし、いまや彼も朝日新聞の主筆として君臨している。そんな船橋洋一の最新刊『新世界 国々の興亡』を読んだ。新刊、とは言っても、朝日新聞の記事の再録プラス感想なのだが。

新世界 国々の興亡 (朝日新書)

新世界 国々の興亡 (朝日新書)

まず、タイトルはポール・ケネディの『大国の興亡』へのオマージュ。冷戦後、そして「冷戦後」後の世界が11名のストラテジストにより語られる。ここで語られるのは、欧州の凋落であり、アメリカの影響力の低下であり、中国・インドなどの台頭だ。

11名は米国、欧州、そして中国などさまざまなところから選ばれ、多様な意見が示される。多面的ではあるが、個人的には玉石混交であるという印象も。もっとも、すべてが「親米リアリスト路線」で書かれるとそれはそれで気持ち悪い。この本はいろいろな「世界の見方」を示しているという点では正解だろう。

個人的に最も印象的だったのは、世銀総裁のロバート・ゼーリック。誘導尋問的に単純化した質問を繰り出す聞き手に対して、以下のようにやんわりとたしなめている姿がよい。

Q:「米国もかつては国際連盟のような国際機関に積極的に関与してこなかった歴史がありますが。」
A:「歴史の読み方は注意深く行われなくてはなりません。」
Q:「中国の台頭につれてグローバルスタンダードではなく中国スタンダードに従わなくてはならなくなるのでしょうか。」
A:「私は中国スタンダードというものがあるとは思いません。」
Q:「アメリカ発の金融危機後、中国の国家資本主義が多くの国にとって魅力的に映っているのではないですか。」
A:「その点はもっと注意深く分析するべきでしょう。そうした見方は少し安易すぎるように思います。」

これでいい。マスコミには「無謬性」など求められていない。ジャーナリストであればなおさらだ。試行錯誤。その中で真実に近づけばよい。上記のやりとりをきちんと載せる船橋洋一の姿勢に敬意を払おう。でも、朝日新聞はとらないけどね。