すべてが鬱になる〜湊かなえ『告白』

2009年の本屋大賞1位にして、映画公開間近の『告白』を読んだ。以下ネタバレ。

告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)

告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)

第一章「聖職者」を読み始めると早速鬱になる。太宰治ばりの独白。どこに騙しがあるか分からない隙のなさ。この章だけでも短編小説として完成している。この闇を抱えた不気味な女教師を演じられる女優は限られる。中でも長台詞を切々と語れるのは松たか子しかいない。この主演に関しては映画のキャスティングに納得。

問題はその次の章以降。章毎に語り手がスイッチし、視点が変わって「真相」が複眼的に語られる構造は、まるで『藪の中』のよう。何が真実なのか、何が正義なのか、読む者を混乱させる。そして「憎悪の連鎖」は、最後に円環構造となって終わる。パズルとては完成したということなのだろう。ミステリとして読めばそこにはリアリティはまるでないけれども、寓話としては「そう来たか」と思わせるオチ。確かに意外感はある。だが、誰も救われない。まったく、すべてが鬱になる話だ。

文庫本の帯は、映画の300円引きのチケットになっている(1枚で4人まで有効)。映画を観に行くつもりであれば、予習にもなるだけでなく、半額くらいのキャッシュバックにもなるので、お勧めではある。鬱になるけど。