表紙の島田八段が渋い『3月のライオン』の第四巻。以下ネタバレ。
- 作者: 羽海野チカ
- 出版社/メーカー: 白泉社
- 発売日: 2010/04/09
- メディア: コミック
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話の中心は島田八段の獅子王戦。体がボロボロになりながらもタイトルを目指し、故郷に錦を飾るために厳しい戦いを挑む島田八段。そんな彼の生き様を目の当たりにする零。頂上を目指すものは常に孤独だ。同じ志を持つものであっても、どこまでの一緒にいられる「仲間」ではなく、「好敵手」なのだ。二階堂との関係でさえも。
義姉の香子もそうだ。父にも理解されず、弟にも受け入れられず、彷徨うしかない。そして、そんな香子の孤独を零は理解できるのに、手を差し伸べることも、突き放すこともしない。いや、できない。
姉も
僕も
――こうして
何も変わらないまま
変えられないまま
…姉弟にも
他人にもなりきれないまま
では、零はずっと孤独なままなのか。「嵐の向こう」で零は何を得るのだろうか。そこで孤独を埋めることができるのだろうか。
手掛かりはある。まず、宗谷名人。彼も俗世を超越したような存在だが、幻の一手「7九角」で宗谷と零が通じ合えたように見えた。「天才は天才を知る」というように、二人はお互いを見出すことはあるかもしれない。将棋の世界の頂上における孤独の「理解者」として。もちろん、そうなるためには、零が将棋の世界での頂点にたどり着く必要がある。そして、その道は果てしなく遠く思える。
次に担任の先生。
何も成果が無かったなんて言うなよ
がんばってたよ
俺は見てたよ
そう、たとえ将棋の勝負の何たるかが分からなくても、支援してくれる人はいる。零が心も体も痛めながら自分の進むべき道のりを進んでいることを知り、彼の生き様を支援してくれる人。そんな支援は実はプレッシャーになるかもしれない。心の負担になるかもしれない。どう付き合っていいのか分からないかもしれない。でも、担任の先生のような支援者はこれから少しずつ増えるかもしれない。いまは彼にとってそういう存在が必要だということがわからなくても。
さて、最後に、あかり、ひな、モモの三姉妹。彼女達は、将棋のことも分からない。零がどれだけ苦しいことをしているのか必ずしも見ていない。だが、どこまでいっても零の味方。零が将棋をしようともそうでなかろうとも、彼を一人の人間として受け入れる。そして、一人の人間として放っておけない。
れいちゃん これ食べて!!
お姉ちゃんと作ったの
たまごとゴマがいっぱい入ってて
甘くてとってもおいしいから
食べると元気出るから
ぜったいたべて
誤解のないようにいえば、これは「愛」だ。すべてを受け入れ、すべてを肯定する。そして惜しみなく与える。
零の進んでいる道は険しく、とてつもなく長い。そして「嵐の中」を進むようだ。嵐の向こうで彼が何を見るにしても、彼の孤独を埋める手掛かりは揃っている。孤独を埋めることはもちろん零の目的ではないが、嵐の中で光を見失いそうになったとき、きっと彼を救う日が来るだろう。