『柴田元幸 ハイブ・リット』(3)

奇想天外、としかいいようがない小説。書き出しからしてこうだ。

昔々、妻が死んでいる男がいた。男が妻に恋したとき彼女は死んでいたし、一緒に暮らした、やはりみな死んでいる子供が三人生まれた十二年のあいだも死んでいた。これから語ろうとしている、妻が不倫をしているのではと夫が疑いはじめた時期にも、彼女はやはり死んでいた。

ストーリーは、死者との結婚生活について、それがなんでもない日常であるというように進んでいく。いや、進んでいるのかどうかも微妙なところだ。著者の朗読も、あまり抑揚のない早口で行われる。この文末を下げて終わらない読み方は個人的には好みではないが、この物語をことさらドラマティックなものにしないという著者の意思が感じられるようだ。

全体を通じて、シュールで滑稽な感じの話だが、考えてみれば、結婚生活などというものは、相手が死者であろうとなかろうと、傍から見ると滑稽なものなのかもしれない。著者の意図もきっとそこにあるのだろう。

柴田元幸ハイブ・リット

柴田元幸ハイブ・リット