今日のハヤカワ文庫さん(14作品目)

早川書房の「SF&ファンタジイ・フェア」(関連:2008-06-23 - coco's bloblog - Horror & SF)シリーズの4巡目に突入。ここまでに読んだハヤカワ5人娘の推薦作品の採点結果から、早川さん、岩波さん、国生さんの3人が残っている。そんな僕はただのメガネスキーかもしれない。

いや、メガネスキーの話は置いといて、今日は、タルコフスキーとストルガツキーの話。タルコフスキーの映画『ストーカー』の原作にしてストルガツキー兄弟の問題作『ストーカー』を読んだ。長年、版元品切れが続いていて入手困難だったらしい。

ストーカー (ハヤカワ文庫 SF 504)

ストーカー (ハヤカワ文庫 SF 504)

あらすじは以下の通り。

ある地域で“何か”が起こり、住民が多数犠牲になり、政府はそこを「ゾーン」と呼んで立ち入り禁止にした。しかし、ゾーンには願いが叶うという「部屋」があると噂され、厳重な警備をかいくぐって希望者を「ゾーン」に案内する「ストーカー」と呼ばれる人々がいた。

ある日、ストーカーの元に「科学者」と「作家」と名乗る二人の男性が、その「部屋」に連れて行ってくれと依頼する。だが、命がけで「ゾーン」に入った後も、予想のつかない謎の現象(乾燥室、肉挽き機)で命を落とす危険が待っている。その道行きの中、「ゾーン」とは何か、「部屋」とは何か、信仰とは何かを3人は論じ合う。

その果てに「部屋」に辿り着いた3人だが、科学者は部屋が何者かに悪用されるのを防ぐため、持参した小型爆弾で部屋ごと破壊しようとする。必死で止める作家とストーカーだが、ストーカーは自分の役割に対して自暴自棄になり、作家も疑心暗鬼で「ここは願いを叶える部屋なんかじゃない、その人の心の深奥の最も醜い欲望を物質化するだけの部屋に過ぎない」と喝破する。結局、誰一人「部屋」に入ろうとはしなかった。

著者の世界観は後半に出てくる議論で示される。「しょせんゾーンは異星人の<路傍のキャンプ>跡地に過ぎず、かれらはキャンプ地の虫に過ぎない人類に何の興味も持っていない」と。これはレムが書いているのと同じ主題だ。つまり、「知的生命体は必ずしも人間同士のようなコンタクトを行わない」というもの。だが、ストルガツキーは、そうした現実をこれでもかというくらい泥臭く描く。レムの知性が軽く抽象化・概念化してしまう話を、ロシア土着的に人間臭い話にするのだ。

エンディングもそう。こんなエンディングにするならSFにする必要などないと思う。だが、よく考えてみれば、これはドストエフスキーが神を問題にしたようなものだ。ストルガツキーにとっての異星人は、ある種の超越的存在であるが、人類にとっては、「救い」をもたらす<神>でも「破滅」をもたらす<悪魔>でもない。このような超越的存在が人類に無関心でいるにも関わらず、あるいは、無関心だと分かっていても、私たちは人生を生きねばならない。ストルガツキーのいわんとしていることはそういうことだろう。神はいない。救世主もいない。で、私達はどう生きるか、と。

この本は、岩波さんによって選ばれるにふさわしい。が、レムを読んでしまうと陳腐化したテーマであり、結末もSF的な飛翔がないという点で物足りない作品。★★☆☆☆。

  • 岩波さん(累計点=11点、平均点=2.75点)

★★☆☆☆ストーカー (ハヤカワ文庫 SF 504)(レビュー=id:SHARP:20080811)
★★★★☆砂漠の惑星 (ハヤカワ文庫 SF 273)(レビュー=id:SHARP:20080523)
★★★☆☆バベル17 (ハヤカワ文庫 SF 248)(レビュー=id:SHARP:20080805)
★★☆☆☆ドゥームズデイ・ブック〈上〉 (ハヤカワ文庫SF) ドゥームズデイ・ブック〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)(レビュー=id:SHARP:20080727)

  • 早川さん(累計点=11点、平均点=3.67点)

★★★★★地球の長い午後 (ハヤカワ文庫 SF 224)(レビュー=id:SHARP:20080808)
★★★★☆決定版 2001年宇宙の旅 (ハヤカワ文庫SF)(レビュー=id:SHARP:20080715)
★★☆☆☆火星年代記 (ハヤカワ文庫 NV 114)(レビュー=id:SHARP:20080703)

  • 国生さん(累計点=11点、平均点=3.67点)

★★★★★あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)(レビュー=id:SHARP:20080731)
★★★★★祈りの海 (ハヤカワ文庫SF)(レビュー=id:SHARP:20080714)
★☆☆☆☆レ・コスミコミケ (ハヤカワepi文庫)(レビュー=id:SHARP:20080801)

  • 帆掛さん(累計点=8点、平均点=2.67点)(三巡目で脱落)

★★★☆☆きみの血を (ハヤカワ文庫NV)(レビュー=id:SHARP:20080717)
★★★☆☆ローズマリーの赤ちゃん (ハヤカワ文庫 NV 6)(レビュー=id:SHARP:20080708)
★★☆☆☆カーリーの歌 (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)(レビュー=id:SHARP:20080803)

  • 富士見さん(累計点=1点、平均点=1.0点)(一巡目で脱落)

★☆☆☆☆たったひとつの冴えたやりかた (ハヤカワ文庫SF)(レビュー=id:SHARP:20080707)