漱石の表紙は久米田先生にお願いしたい

夏目漱石は書いた。

山路を登りながら、こう考えた。
智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。
住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画が出来る。
(『草枕』夏目漱石

肝心なのはむしろこのあと。人の世とはそういうものであり、それが嫌なら人でなしの世界に住むしかないと言っている。漱石の文学というのはこの諦念から生まれている。それでも絶望して自殺することもなく、厭世のポーズを取ることもなく、ひたすら内面に抱えた矛盾を解消するための思考実験を重ねた。それが彼の文学の遍歴とぴたりと重なっている。だからこそ漱石は偉大なのだ。それゆえに『明暗』が未完に終わったことが悔やまれる。

で、この小畑健の安直な表紙絵には違和感あり。

こころ (集英社文庫)

こころ (集英社文庫)

むしろ「絶望した!」と叫びながらも世の中の矛盾に敏感に反応する感受性を持つ久米田康治先生にお願いしたい。