夏目漱石は書いた。
山路を登りながら、こう考えた。
智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。
住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画が出来る。
(『草枕』夏目漱石)
肝心なのはむしろこのあと。人の世とはそういうものであり、それが嫌なら人でなしの世界に住むしかないと言っている。漱石の文学というのはこの諦念から生まれている。それでも絶望して自殺することもなく、厭世のポーズを取ることもなく、ひたすら内面に抱えた矛盾を解消するための思考実験を重ねた。それが彼の文学の遍歴とぴたりと重なっている。だからこそ漱石は偉大なのだ。それゆえに『明暗』が未完に終わったことが悔やまれる。
で、この小畑健の安直な表紙絵には違和感あり。
- 作者: 夏目漱石
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- 発売日: 1991/02/25
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