これが元祖〜『世界の中心で愛を叫んだけもの』

"The Beast that Shouted Love at the Heart of the World"が原題。

ハーラン・エリスンの短編集。多くは1960年代に書かれているが、当時の「ニューウェイヴ」な感じが出た作品が多い。暴力的で、狂気を孕み、それでいて愛に溢れている。

表題の作品は、エヴァンゲリオンのTV最終話「世界の中心でアイを叫んだけもの」でパクられ、その後さらにエヴァをパクった編集者によって某小説のタイトルとなった。が、これが本家。そして本家の方は、文字通り「世界の中心で」「愛を」「叫ん」でいる。これはSFにしかできない。あらすじはこんな感じ。

あちこちで大量殺人事件を起こす男。地球から遠く離れた惑星で調査隊が出くわしたその男を模した彫像。
宇宙の果てにあるすべて中心点である「交叉時点(クロスホエン)」。そこで捕らえられた凶暴な竜。7つの犬の頭と、凶暴な鉤爪、危険な背の棘、強力な尾を持っている。
全時空間で最も悪を体現している存在から、その「悪」だけを「排出」する交叉時点の科学者。排出された悪に影響されたあらゆる宇宙、時間の生命体。その中の一人である、冒頭の殺人鬼は死刑間際に叫ぶのだった。「俺は世界中の存在を愛している!」と。

他にも『殺戮すべき多くの世界』や『少年と犬』のようなバイオレンスに満ちた作品が多数。抉るように鋭い言葉をちぎっては投げつけるような文体。いまとなってはかえって時代性を感じてしまうのだが、当時としてはおそらく斬新だったのだろう。

どうでもいいけど、巻末に他のハヤカワ文庫の紹介がされているのだが、1ページを費やしてコードウェイナー・スミスの「人類補完機構シリーズ」が紹介されていた。これって「エヴァつながり」を狙っているんだろうな、と気付きつつも、欲しくなってしまった。