知性にとって他者とは何か〜『ソラリス』

地球の外に知的生命体が存在するのか―というテーマに取り組んだSFは少なくないが、その中でも古典と言える『ソラリス』。かつては、『ソラリスの陽のもとに』という邦題で出版されていたが、本書は2004年に沼野充義が新たに訳したもの。

ソラリス (スタニスワフ・レム コレクション)

ソラリス (スタニスワフ・レム コレクション)

タルコフスキーによるSF映画『惑星ソラリス』は、「母なる大地への回帰」というロシア的な価値観で締めくくられている。また、リメイク版であるソダーバーグの『ソラリス』は、「真実の愛を貫くことが美しい」といういかにもハリウッド的な、メッセージを打ち出している(主人公がジョージ・クルーニーであることでその点が強調される)。

しかし、原作の『ソラリス』はあくまでも「知性にとって他者とは何か」という思考実験を誠実に(ときに茶目っ気たっぷりに)行っている。今回、新訳を読んでスタニスワフ・レムの表現したかったことがよく分かった。結局のところ、生命の在り方は必ずしも人類のような姿を取らないということ、そして場合によっては理解しあうことも対立しあうこともなく、ただ「他者」として戯れているようにしか見えないことがある。だが、その場合にも、科学者は誠実に対象物に対峙していくだろう―と。