やれやれ〜『ロング・グッドバイ』

レイモンド・チャンドラーの不朽の名作『長いお別れ』が、村上春樹の新訳によって新しい命を吹き込まれた。

ロング・グッドバイ

ロング・グッドバイ

以前読んだのは20年近く前とはいえ、ストーリーの骨格は身に染みていた。それはこの作品があまりに有名だからだ。それなのに、今回も、まるで全くの新作を読むように、ページを繰るのが楽しみだった。そして、ラストが近づくにつれ、読み進むのが惜しくなった。

チャンドラーの文体は淡々としていながらも、容易には現実に妥協しない強い主体を核にしている。だからこそ、この作品はミステリの枠にとどまらない文学作品として愛されているのだろう。そして、フィリップ・マーロウという人物は時代を超えて親しまれているのだろう。

村上春樹の翻訳はとても丁寧。中立のようでありながら、実は相当のこだわりをもって無駄をそぎ落としている。または、バランスを維持している。ちょうど彼の小説が強固な美学に裏打ちされているように。マーロウが「やれやれ」とぼやいたりしている姿は春樹流ハードボイルドといった感じで、実にほほえましい。

巻末のやたら力の入った解説も見所満載。『ロング・グッドバイ』と『グレート・ギャツビー』を読み比べると新たな発見があるのかもしれない。