香山リカは相変わらずあざとい。最近の「30代うつ」の本質を「自己愛」だと規定し、「仕事中だけうつ病」というラベルを貼っている。彼女自身は、直接的な表現を回避しているが、要は「怠け」「甘え」だと言いたいのだろう。
仕事中だけ「うつ病」になる人たち――30代うつ、甘えと自己愛の心理分析 (こころライブラリー)
- 作者: 香山リカ
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/01/19
- メディア: 単行本
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以下、Amazonの紹介文より。
病気休暇中に海外旅行。
不調になったのは会社のせい。
自分の「うつ病」をあちこちに言って回る。
心の病の休職者による企業損失が年間約1兆円とも言われる時代。30代に、新しいタイプの「うつ病」が急増している。果たして彼らは、ほんとうに病気なのか?それとも!?
いまどき若年層ビジネスマンの心理を、当代一の人気精神科医が、切り口鋭く読み解く!
こんな「うつ」が30代に増えている
●職場では不調だが、好きな趣味は精力的に行える
●学歴が高く、まじめだが、やや自己中心的
●自分が「うつ」であることの自覚が強い
●一定のレベルまで回復するが、なかなか復職に踏み切れない
●不安感、恐怖感、あせりといった感情の動揺がひどい
など
ツグオさん(31歳)はブログを開設したのだが、そこでは会社の不当な扱いに加えて、「今日もうつだ」「もう死んだほうがいいのかな」「気がついてみたらビルの屋上に立っていた」といったうつ症状、希死念慮をほのめかす記述が目立った。しかし、一方では好きなアーティストのライブに行ったり学生時代の友だちとキャンプに行ったり、と元気な様子も記されていた。会社の相談室から紹介された精神科に通って、かなり大量の抗うつ薬を服用しているらしかった。<本文より>
彼女自身の言葉による主張は、以下で聴ける。
http://tbs954.cocolog-nifty.com/st/files/sakasa20070411.mp3
http://tbs954.cocolog-nifty.com/st/files/sakasa20070413.mp3
この香山の意見には全面的に反論したい。
彼女は「うつ病」の認知の高まりや、インターネットの発達等の「社会的要因」には目配せしているものの、就労環境を取り巻く構造的な背景への視点が欠落している。
つまり「経済のグローバル化」「競争の激化」「実績主義評価」により、仕事をすることのプレッシャーは以前よりも格段に増している。もはや「終身雇用」も「年功序列」も実質的には崩壊しており、労働者は不安定な環境にさらされている。
また、日本の場合には、80年代から90年代にかけて「バブルの生成と崩壊」を経験した。その過程で企業が新卒者の採用を極端に増やした直後、同じく極端に絞ったことから「二極化」や「フリーターの増加」が生まれた。「派遣社員の増加」も同じ背景が生んだ現象だと言えるだろう。企業内においても「業務分担のいびつさ」の問題が発生している。要するに、偉くなれないのに仕事ばかり増やされるのが、いまの30代ということだ*1。
政府や企業に全ての責任を負わせるつもりはない。が、金融政策の失敗や、競争激化によって生じた格差の放置などの政府の無作為を追及することなく、「30代うつ」の原因を個人に負わせるのはあまりに酷である。香山にとっては、すべて「自己責任」の範囲だということかもしれない。が、そこで思考停止している限り、社会問題化している「30代うつ」の本質を捉えることは不可能だ。香山の限界はここにある。
蛇足ながら、「うつ病」だと言いながら、海外旅行やライブに行ったりするのは、個人的には「ストレスの発散」とか「気分転換」として十分あり得ることだと思うし、恢復のために奨励すべきものだとさえ思う。精神科医である香山が、この点を捉えて「仮病」であるかのように言って、「保健室から出てきなさい」みたいな言い方をするのは、無神経としか思えない。