京極夏彦の伝奇テイストに、綾辻行人の叙述トリックを加えたような大作--
奈須きのこの『空の境界』の第一章を読み終えたときの感想だ。新書2段組で上下巻でおよそ900ページにも及ぶボリューム。もし1巻にまとまっていたら、まさに本家・京極堂の雰囲気に近づいていただろう。
しかしながら、この作品はいわゆる「新本格ミステリ」のカテゴリに括られるものではない。ミステル的要素は持ちながらも本質的には伝奇小説であり、作品の根幹をなす登場人物の超常能力についても、ミステリの文法による「トリック」が解説されることはない。
作者の奈須きのこは、「月姫」や「Fate」などのゲームのライターであり、この小説ももともとは2001年に同人誌として刊行されたものを、2004年に講談社が出版した経緯にある。作品に色濃く漂う「同人テイスト」は、場合によっては読み手を選ぶかもしれない。
しかしながら、この新しい才能は、新しいジャンルを切り拓く可能性に溢れている。上下巻の各巻の巻末の笠井潔の解説も相当に力が入っている。今後の創作活動に期待したい。

- 作者: 奈須きのこ
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