音楽が好きだ。
とりわけ、目の前で奏でられる「生」の音楽が。
新型コロナウィルスの流行で、音楽のライブイベントも「自粛」する時期が続いていたが、僕の場合、先月からライブに通う日々が戻っていた。
今回は大貫妙子。
僕が彼女を知ったのは、坂本龍一が関わった1982年のアルバム『Cliche』がきっかけ。
テクノの尖ったサウンドとは対照的な、ヨーロッパ映画のサントラのようにしっとりとしたピアノのルバートな世界観に、新しい音楽の扉を開かされる思いがした。
彼女の過去のキャリアとしてのシュガー・ベイブを知ったのはその後のこと。
あれから40年近く経つが、こうして先陣を切るようにコンサートを再開するところに、大貫妙子の芯の強さを感じさせる。
残念ながら、ゲストに予定していた原田知世の出演はなくなったが、佐橋佳幸をゲストに迎えてのホールでのアコースティックな布陣となった。
会場は、我ら新宿区民が誇る新宿文化センター大ホール。
コロナ対応で一席ずつ感覚を空けての着席で、しかも最前最中ブロックのセンターだったので、とてもゆったりとした贅沢な雰囲気。
まずは、アコースティックの定番の「横顔」でライブが始まる。
バックを固める、ギター:小倉博和、ベース:鈴木正人、ドラム:林立夫、ピアノ:フェビアン・レザ・パネとの息もぴったりとあって、時にゆらぎを楽しませつつ、音楽が紡がれて行く。
心地よい。
極上の空間。
ゆったりとしたMCを挟みながら「色彩都市」「都会」「突然の贈り物」など、80年代頃の曲を多めに演奏。ここまでが第一部。
今年になって世の中の騒ぎを思うと、こんなに音楽を楽しめること自体が、貴重なこと、奇跡のようなことのように思える。
そして、換気の休憩を挟んで第二部へ。
佐橋の「原田知世さんの代役ということで、あれ、おれ今日「時をかける少女」歌うのかな?って」という漫才トークで和ませながら、アコースティックギター2台の絡み合う素敵な演奏へ。
手拍子を誘導する佐橋の合図もあって、ライブは一気に盛り上がる。
ここで大貫妙子がステージに戻ってきて、コラボ的な流れで「緑の風」「あなたを思うと」「snow」「五番目の季節」。
どこまでが楽譜にあって、どこからがアドリブなのか、それも分からないような音の楽しさ。
これだよ、これ。
ジャズとはまた違うのだろうけど、セッションの演奏ならではの緊張感とカタルシスが交互に襲ってくる。
第二部は新しめの曲が多く、終盤の「美しい人よ」と「星の奇跡」が特にしみた。
ここでメンバーが退場するが、ホールからは大きな手拍子が沸き起こり、アンコールへ。
まずは山弦の演奏で「a life」、そして最後はメンバー全員での「ピーターラビットとわたし」。
圧巻のフィナーレ。
終演後、客席からスタンディングオベーション。
僕も立ち上げって拍手を送っていた。
まさに、新旧の名曲オンパレード。
この日の演奏の様子は、あの山下達郎のライブ配信を手がけたミュージックスラッシュによって、10月2日・3日・4日の三日連続で配信が予定されている。
当日現場に行けなかった人もこうして「鉄の熱いうちに」ライブを追体験できる機会を持てるというのは、とても有意義なことだと思う。
また、大貫妙子は、12月20日に人見記念講堂でシンフォニックコンサートを開催する予定。
コロナ禍にあって「ステイホーム」を唱えてテレビ中継を見てばかりでは、ライブ音楽の文化は衰退してしまうかもしれない。
そんな危機の最中にあって、大貫妙子のようなベテランが守りに入ることなく、先陣を切ってライブを再開する姿勢に自分も勇気付けられた。
いいものを見た。
(セットリスト)
1 横顔
2 la musique
3 色彩都市
4 Monochrome & Colours
5 都会
6 突然の贈り物
(換気・休憩)
7 Spring(山弦)
8 Joy Ride(山弦)
9 緑の風
10 あなたを思うと
11 snow
12 五番目の季節
13 Wonderful
14 美しい人よ
15 星の奇跡
(アンコール)
en1 a life
en2 ピーターラビットとわたし