アイドルシーンは変わった。
Perfume、AKB48、ももいろクローバーなどのブレイクに続けばかりに、「夢は武道館!」を合言葉にして、ありとあらゆるところから「ヒト・モノ・カネ」が投下された2010年代前半。
「アイドル戦国時代」と評されることも多いが、個人的には「百花繚乱」という言葉の方がしっくり来る。
続々とリリースされるCDをチェックし、フェスでは初めて見るアイドルに胸をときめかせ、地方にも遠征してローカルアイドルやスクール生をチェックしていたあの黄金時代。
だが、時代は変わった。
2010年代後半になると、投下された資本を回収する時期に入り、アイドルの卒業や解散が相次いでいる。そんなシーンの中で「楽曲派」とされるグループが堅調に実績を残している。
sora tob sakana、Maison book girl、ヤなことそっとミュート、フィロソフィーのダンスなどがその代表格で、確固とした世界観を持って、クオリティの高い楽曲を繰り出し、アートを強く感じさせるビジュアルで、新しい時代を牽引してる。クリエイターの顔が見えやすいのも共通した特徴かもしれない。
さて、sora tob sakana。
僕が最初に見たのは結成一年目。山崎愛が加入した頃でまだ5人体制。
サウンドプロデューサーの照井順政の「クラウチングスタート」を初々しく披露する姿に心を揺さぶられた。
sora tob sakana 最高だな!!楽曲派()だから絶賛するよ!!!! https://t.co/oYEBH8HcuR
— Sharp (@sharpc) 2015年4月14日
2年目となる2015年10月に、ファーストシングルCD「夜空を全部」をタワレコ”新宿店”限定でリリース。
足を運ぶファンの数は少なかったが、良質な音楽を求める、貪欲で感度の高い楽曲派には着実に届いていた。
2016年には、テレビ「アイドルお宝くじ」、アイドル横丁夏まつり!!、東京アイドルフェスティバルで一気にファンの裾野を広げ、渋谷WWWでのワンマンをソールドアウト、ファーストアルバム「sora tob sakana」をリリースと、畳み掛けるような展開を見せた。
2017年には、照井率いるバンドと恵比寿LIQUIDROOMで全編バンドセットライブを成功させ、台湾にも遠征を実現。
そして2018年。
ワーナー ブラザース ジャパンからのメジャーデビュー、そしていよいよ今日の4周年記念ワンマンライブを迎えた。
ライブは昼と夜の二部編成。
東京国際フォーラムホールCという大箱で、全編バンドセットという勝負ワンマン。
昼の部は、天井から吊り下げられた縦長のモニターが7枚。
バンドが「海に纏わる言葉」を奏でると、スクリーンにはメンバーのそれぞれの姿が映し出され、そのスクリーンが上に引き上げられると、その後ろから実際のメンバーが登場するという演出。
緻密で音圧の高いバンドのサウンドも素晴らしいが、VJの映像の美しさ、メンバーの存在感が一体となって、まるで「現代アート」のようだと思う。
視覚、聴覚を絶え間なく刺激し続け、鑑賞するもののテンションを高めていく総合芸術というべきか。
客入れの時に、坂本龍一のピアノ曲が流れていて、10年くらい前に彼がここでピアノコンサートを開いたときのことを思い出した。
あの時「ああ、自分は新しい音楽を聴いている!」という喜びと興奮に胸が高鳴ったが、今日も同じような気持ちにさせされる。
今日のセトリにも予定調和的なものはなく、新旧のレパートリーがまるでシャッフルされたかのように展開され、レア曲や、新曲もサプライズを伴って受け止められた。
僕は昼の部は二階の横最前エリア、夜の部は一階の最前センターエリアで鑑賞していたのだけれども、二階から全体を俯瞰するのも楽しかったし、一階最前で受け止めきれないくらいの情報量やレスの洪水に溺れるのも楽しかった。
何よりもオサカナのメンバーが終始キラキラしていた。
ホールの最前センターでアイドルのワンマンライブを見るのはドロシーの中野サンプラザ以来だったかな、と思い出しつつ、いまのsora tob sakanaパフォーマンスの充実はあの頃のダンス&ボーカルユニットに勝るとも劣らないし、音楽の意匠は新しいものになっていると感じずにはいられなかった。
照井順政のハイスイノナサのライブにも足を運んだことがあって、ああいう楽曲群を「ポストロック」と呼ぶのであれば、このsora tob sakanaの楽曲は「ポストロックのフレーバーを入れたアイドルソング」というのが適切ではないかと思うのだけれども、思えば、アイドルソングの領域はすごく広がっているし、アイドルファンの守備範囲もそれに応じて拡大しているんだよね。
「アイドルを超えた」とか「アイドルの枠には収まらない」と言いたくはないというか。
sora tob sakanaは、まさにアイドルの楽曲の領域を広げるフロンティアであるし、バンドセットとVJとの組み合わせてで見せてくれるsora tob sakanaのライブは、アイドルのステージの表現を高次元に牽引するリーダーである。
そう感じずにはいられなかった。
2018年、アイドルシーン全体の規模の縮小は隠しきれないけれども、雨後の筍のように乱立した「戦国時代」「百花繚乱」の時代は完全に終わって、淘汰の結果、クオリティが高く、世界観がしっかりとした楽曲派だけが残っていく。
ちょっと極論めいた言い方をすれば、sora tob sakanaがこの日の国際フォーラムで僕に見せてくれた光景は、そんな世界の一角を思わせた。
あと一つだけ書いておきたい。
この日は、一般チケット以外に、プレミアムチケットが発売され、前方エリア座席指定、リハーサル見学、特製グッズ(Tシャツ/タオル)、特製リーフレット、サイン入りポスターという特典がつけられて、1万円を超える価格で販売された。
これは満足度が高かった。アリだと思う。
大きなワンマンでクラウドファンディングを行うアイドルグループも増えて来ているので、最近の傾向の一つだと言える。
誰もが「夢は武道館!」を唱えた2010年代前半の熱狂は去ったけれども、内容の充実した満足できるライブを求め、そこにお金を惜しまないコアなファンは決して減っていないというが今のシーンだと思う。
その動きをちゃんと捉えられているか、そしてファンが求めるものを提供する手段を用意しているか。ここの巧拙で、ライブの充実度が決定される時代になったのではないだろうか。
今回のワンマンでは、次の大きなワンマンなどに関しては発表もなかった。
「どんどん箱を大きくすることで物語を紡ぐ」というのも、個人的には2010年前半に手垢のついた演出であると思っている。
なので、特段の不満はないというか、ああいう手法からは一線を画していって欲しいと思うので、むしろ幸福な気持ちになったとさえ思える。
これからもオサカナが空を飛んで行く先を見たいし、楽しみながらその先へとについて行きたいと思う。
オマケ。
もやはここまで規模が大きくなると遠くから見守っていようと思うけど、今回も寺口夏花ちゃんと揃いのTシャツでチェキ撮ったよ。
なつかにかわいい。
(セットリスト=公式Twitterから拝借)