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良質なアニメ―映画『この世界の片隅に』

こうの史代原作の『この世界の片隅に』(片渕須直)を観に行ってきた。

konosekai.jp

クラウドファンディングで約4000万円もの資金を集めて作られた作品。

戦争中の広島を舞台にしているということで、戦況の悪化に伴って世相はどんどん暗くなるし、空襲や原爆が人の生死に大きな影響を与えるわけだけれども、そんなシーンが展開されながらも、生きていくことの意味をしっかりと描いている作品になっていた。

アニメーションとしては原作を尊重した上質な作画になっているし、声優陣も妙に力が入ることなく終始自然な演技で臨んでいるし、何より奇をてらわない演出で、最初から最後まで落ち着いた気持ちで見ることができた。

後付けの価値観による「反戦」的なゴリゴリの主張を前面に押し出すことなく、あくまで当時の個人の目線で戦争を描写しているところがこの作品の特徴かもしれない。

主人公のキャラクターに魂を吹き込んでいるのは、のん(本名:能年玲奈)の演技。ある意味で、「憑依系」と呼んでも差し支えないかと思う。家族を失ったり、暴言を吐かれたり、身体を傷つけられたりという試練に直面し、悩んだり落ち込んだりしながらも、生きる意味を見出し続ける姿に勇気を与えられる。

また、岩井七世も出番はそれほど長い時間ではないが、輝きに溢れたイメージを損なわない演技で存在感を示す演技。

オープニングやエンディングで流れるコトリンゴの音楽も、静かさの中に強さを秘めていて、この作品の主人公や作品世界と良く合っていた。総じて丁寧に作られた疵の少ない作品。

爆発的なブームになることはないだろうが、口コミでじわじわ人気を広げて、何年たっても色あせない作品になるだろう。

いろいろな事情でプロモーションができず、メディアでも取り上げられないようだが、良質なアニメを愛する人にオススメできる作品。