君と世界の闘い―『エスター』

君と世界の闘いでは、世界に支援せよ。
(フランツ・カフカ

『エスター』(原題:Orphan)を観た。

(公式サイト):エスター

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邦題のエスターは少女の名前だが、原題の「Orphan(孤児)」の方が、この作品の本質を言い当てている。

かつて3人目の子供を流産したケイト・コールマンとその夫のジョン。彼らはその苦しみを癒すため、孤児院からエスターという9歳の少女を養子として引き取る。少々変わってはいるが年齢の割にしっかり者であり、すぐに手話を覚えて難聴を患う義妹のマックスとも仲良くなるエスター。だが、やがて彼女は恐ろしい本性を見せる。

この風変りな少女が起こす事件こそが、この作品の見所。軽い気持ちで観始めたのが、ぐいぐい引き込まれていく。

「息をするように嘘をつく人」というのは確かに存在するし、ある種のサイコパスなんだろうと思うが、この物語でもそのような描写がいやというほど出てくる。

この作品が「ホラー」のカテゴリーに入れられるのは、主人公の視点を通じて、観ている人を不安に陥れるからであろう。

現実の世界。自分の解釈。何が正しくて何が悪いのかは分からない、いや、何となくわかったところで、結局何ができるわけでもないのではないだろうか。そんな不安感。

「家族」が誰なのか分からないという不安が芽生えて広がっていく前半の濃密な心理戦は絶品。自分の不安を周囲の誰もが共有してくれずに、あたかも「世界」を敵に回して闘っているように感じさせるところは、カフカ的世界を思わせる。

しかし、終盤になってやや強引で大味な展開になるところは、やはりアメリカ映画だったかという印象。無理矢理オチをつけようとしなくてもいいんじゃないかと思う。

不安というのは、正体が分からないうちが一番大きくて、ある程度白黒付いてしまったら、不安はなくなるものだから。