猫と鏡と少女ーバルテュス展@東京都美術館

東京都美術館で始まったバルテュス展を見に行ってきた。1993-94年に東京ステーションギャラリーで開催されて以来約20年振りの個人展。

公式サイト:バルテュス展


バルテュスが好んだ対象は、猫と鏡と少女。猫は好奇心と奔放さを、鏡は美意識と自我を、少女は輝きと儚さをそれぞれ象徴する。

すなわち、少女は、目覚め、見つけ、輝く。画家はそれを目撃し、記録する。「永遠になれ」と祈りを込めて―

今回来日した作品の中での目玉は、キービジュアルにもなっている「夢見るテレーズ」(NYメトロポリタン美術館所蔵)と、ポンピドゥーセンターから貸し出された「鏡の中のアリス」だろう。

マグリットの言葉を借りていえば、「これは少女ではない」。少女を描いているうように見せているが、画家が描いているのは別のものだ。いわば、自らの魅力に気付き始めた少女が、画家の前でポーズを撮る瞬間に現れる自意識を写し取っているように見える。

初期の習作から、節子夫人を描いた日本画風のレアな作品まで100点を一挙紹介するほか、画家のアトリエを再現したコーナーも。パリでもこんなにまとまってバルテュスの作品を観ることができる美術館はないので、今回の作品展は本当に貴重。

残念ながら1993年のときの目玉だった「かがみねこ」の展示はないものの、当時展示された篠山紀信の撮影したバルテュスの大きなパネル写真群が展示されているのには感激。節子夫人や娘の春美さんと一緒に写った写真は、生前のバルテュスの日常を写していて価値があると思う。。フォトグラファーとして絶頂期にあった篠山紀信が撮った作品群は、美しく、画面全体に緊張感が漲っている。画家の精神を写し取るには至らないが、それが紀信のスタイル。グッズコーナーで売っている、カルティエ=ブレッソンバルテュスを撮ったモノクロの組み写真の方が、彼の精神性を掘り下げているように見えた。

少女の輝きを記録する画家バルテュスを記録するフォトグラファーというのはメタな記録であり、そのメタな記録を鑑賞する自分はさらにメタな存在で…などと考え始めたら頭がおかしくなりそうだったが、そんなにこじらせる必要はなく、純粋にバルテュスの筆致を楽しめばいい展覧会だと思う。これを見逃したらあと20年はこんな機会はないだろう。

バルテュス展は6月22日まで。

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