『きゅんっ』きゅんくん×藍田麻央―「本物」の時間

女の子を撮るのは桜を愛でるのと似ている。儚い美しさを永遠のものにしたいという、静かだが狂おしい想いの具現化だ。

僕にとっての女の子写真集の最高傑作は、川島小鳥さんが2007年に出した『BABY BABY』。4年の長い時間をかけて一人の女の子を撮り続けた作品。撮る側の想いと撮られる側の想いを感じる写真の圧倒的な重み。「ベストショット」ばかりだとかえって空虚になってしまうところ、恥ずかしそうに顔をそむけたり、ぎこちなく微笑んだり、変な顔をしていたり。どんなショットも「本物」の時間に裏打ちされていて、美しいと思える。

さて、『きゅんっ』。この写真集にも、撮る側/撮られる側の信頼関係と、積み重ねた時間の重さが写っている。フォトグラファーの藍田麻央と、モデルのきゅんくんは、高校の同級生。3年間の時間をかけて作られた作品を一冊にまとめたのがこの『きゅんっ』。ちなみに、きゅんくんは、フォトモデルであると同時に、ファッションクリエーターでもある。

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教室での制服姿、自然の中でのワンピース、そして渋谷の交差点のど真ん中での宇宙服。自らの存在の不安を打ち消そうとするようなきゅんくんの強い眼差しと、カメラを持つ藍田麻央の暖かく見守るアングル。儚くも美しい季節を共有した二人の関係が、ここに記録されている。スクールガール風といった「作り物」ではなく、「本物」の時間。もう戻ってこない。だが、確実に存在した時間。それが、見る者の胸を締め付ける。

独創的な宇宙服の実物とそれを着た彼女の写真だが、実は、去年某所で見かけていた(そのときは「きゅんくん」と名乗っていなかった)。そのとき幸運にも彼女と話ができたが、作品の持つパワーと、彼女自身の謙虚な雰囲気のギャップが強く印象に残っていた。まさかその作品を、パルコの「シブカル祭。」の会場で見つけるなんて。

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コミティアの会場でほぼ一年ぶりにきゅんくんに再会したが、いまの彼女はさらに磨きがかかって美しくなっていた。彼女の姿を今後誰かがまた残すだろうが、藍田麻央のような想いを持ったフォトグラファーが良い形で残すことを期待したい。そして、きゅんくん自身がこれからも素晴らしい作品を生み出すことを祈る。

(参考)
きゅんくんサイト:きゅんくん
藍田麻央サイト:top