そして毎日は続いてく―『3月のライオン(9)』

そして毎日は続いてく 丘を越え僕たちは歩く
(「ぼくらが旅に出る理由」小沢健二


表紙にもあるように、今回は「ひなた巻」。彼女を巡るいじめは一応解消したのだけれど、どのような進路を取るかという問題は、逃げることのできない別の話として、静かに横たわってる。

そんなひなたに対して、零は、希望を与え、手を差し伸べる存在となる。そう。人生に「一件落着」なんてない。毎日は続いていく。これからも。これまでと同じように。

ひなたが希望をもって進める道を見出すことは、読者の願いでもある。そして、この巻はそのような光景を僕たちに見せてくれる。

一方、彼女をいじめていた人物についても、心の「隙間」が描かれる。先生に注意されたからと言って問題が解消するわけではない。その心の中には何か満たされないものがあるわけで、それを陳腐でない言葉で示すところに、羽海野チカの優しさがあるのだろう。こういう視線を獲得できる人もそれほど多くないだろうが、それをマンガの世界に盛り込める人はほとんどいないのではないだろうか。

後半では、宗谷名人と土橋九段の対決が描かれているが、これまでの作中の対局と同様、登場人物の人間性が浮かび上がってくるような「交流」になっている。孤高の人物の心のうちをこれだけ描けるのは、作者自身がそのような経験を持っているからだろう。

ということで、人生経験に裏打ちされた重みのある『3月のライオン』。こんな素晴らしい作品をじっくりと読める幸せを噛みめつつ、明日からも生き抜こう。丘を越えて歩いて行こう。