桜木紫乃『ホテルローヤル』―地味な世界で地道に生きる人たちの物語

芥川賞作品と比べると直木賞作品は刺激が少ない。そんな風に考えていた時期が私にもありましたー

148回受賞作の朝井リョウ『何物』を読んで、その衝撃的なラストに感銘を受けたので、今回の桜木紫乃『ホテルローヤル』も期待をもって読み始めた。

釧路のラブホテル「ホテルローヤル」を巡る7編の連作小説集。最近の流行に即して、時系列はバラバラ。だが、人物は少しずつ重なり合っている。

舞台が舞台だけに男と女の交わりを描いたものであるかと思わせながらそうではないところがこの作品の読みどころ。ホテルを建てるときの思い。ホテルで働く人の生活。ホテルを利用する人の事情。ホテルを閉める人の決意。そして、廃墟となったホテルでもなお繰り広げられるドラマ。

下世話な場面であっても、桜木紫乃の筆は抑制されていて品格を保っている。そして、人物の広がりや、時間の重みが、この連作にリアリティを与えている。報道によれば、彼女の実家は本当に「ホテルローヤル」というラブホテルだったということで、それはリアリティがあるのは当然かもしれない。そこに来る人、そこで働く人、そして、ホテルを経営する人を、彼女は実際に間近で見ていたわけで、それはもう、池井戸潤が中小企業の社長や銀行員を描くようなものだ。

個人的には、高校教師と女子高生という組み合わせに関心を持ったが、作品の中での描かれ方がやや物足りないと感じた。品格を保つために大胆な省略法を用いたのかもしれないが、原因と結果の間に飛躍があることは否めない。

とは言え、全体の構成は見事であるし、文章も非の打ちどころがない。ただ、このような題材が面白いかと言われると、ちょっと微妙だ。少なくとも帯の文句にある「孤独を抱える男女は「非日常」を求め、扉をひらく―」という言葉からドラマティックな展開を期待するとちょっとイメージと違うと感じるだろう。むしろ地味な世界で地道に生きる人たちの物語を丁寧に描いた作品。熱や毒はないけれども、高い次元でバランスの取れた佳作だと思う。

ホテルローヤル

ホテルローヤル