JJ監督の手腕が炸裂―『スター・トレック イントゥ・ダークネス』

3カ月前、旧作の『スター・トレック』の劇場版シリーズを一気視聴したとき、僕はこう書いた。

そんな「クールな敵役」を、現在の基準で選ぶとなれば、これはもう『シャーロック』のベネディクト・カンバーバッチ以外には考えられないということになるのだろう。
敵役登場―『スター・トレックII カーンの逆襲』 - SHARPのアンシャープ日記

さて、そんな感じで期待のハードルを上げて『スター・トレック イントゥ・ダークネス』の先行公開に行ってきた。もちろん3D字幕で(先行公開にIMAX 3Dがなかったのは残念)。

一言で言えば、冒頭からラストまでジェットコースターに乗りっぱなしのような息をつかせない展開。J・J・エイブラムス監督の手腕が炸裂する凄い作品。そして、ベネディクト・カンバーバッチの濃厚な存在感。特撮の美しさ。SF設定だけに頼らない、生身の人間の動きで魅せるアクション。エモーショナルな音楽。とまあ、実に完成度の高い作品。

スター・トレックを知らない人でも、たとえ前作を見ていなくても、主要人物や背景の説明がさりげなくなされている。以前の『スター・トレック』シリーズには、どこか「一見さんお断り」的な敷居の高さ、というか、内輪ウケ優先の空気があったが、本作は完結した極上のエンタテインメントとして満喫できる。

もちろん、旧作を知り尽くしたファンの場合、「同様に楽しめる」どころか、あらゆるところに周到に用意された旧作へのオマージュのおかげで、新旧の「2倍」以上の楽しみを得ることができる。旧作のモチーフの取り入れ方、時空を超えたかのような人物の登場のさせ方、含みのある思わせぶりな台詞など、旧作を見返したくなるくらいの凝りようだ。

前作の封切の際に、JJは「旧作の熱心なファンではなかった」と告白していたが、続編を作るに際して、旧作の劇場版を研究したことは疑いない。劇場版封切の前にこう推察したが、今回の視聴で確信に変わった。

J・J・エイブラムスは『スター・トレック』シリーズの熱心なファンではなかったそうだが、劇場版第1作を映画館で鑑賞していた。であれば、二作目の『スタートレックII カーンの逆襲』でクールな敵役が出現することを知っていてもおかしくない。
敵役登場―『スター・トレックII カーンの逆襲』 - SHARPのアンシャープ日記

監督としてのJ・J・エイブラムスは、メッセージ性とか、芸術性とか、作家性を前面に押し出すタイプではない。むしろ、「最大多数の観客に、最大のエンタテインメントを与えるにはどうするか」という方程式を解くのに長けた監督であるように思える。アメリカ本国でも「オワコン」になっていた「スター・トレック」シリーズにこれだけの生命を吹き込んでしまうのだから、やはり「天才」だと言わざるを得ない。外見こそ『パシフィック・リム』で怪獣とドリフトしてそうなオタク風。その相似たるや「太巻=秋元」以上なのだが、そんな外見とは裏腹に、中身の方は高い次元でバランスの取れた作品を生み出すプロデューサーの手腕を持った名監督だ。

この手腕だから「スター・ウォーズ」の続編の監督に任命されるのは当然だろうし、「スター・トレック」と「スター・ウォーズ」の両方の監督を務めるという前人未到の離れ業も、きっと難なく成功させてしまうのだろう。

とまあ、これ以上書くネタバレになりそうだし、ネタバレになると面白さ半減となる性質の作品だろう。公式プロモーションでもこう言っていた。「犯人はヤス」的なネタバレはご遠慮下さい、と。

ということで、これ以上詳細を書くことは避けるが、プロットの置き方、前作からさらに魅力を増したキャスティング、そして絶妙のエンディングと、どこを取っても手練れによる一級のエンタテインメント。こういう作品こそ、夏休みに家族や友達と連れだって行くのが相応しい(本格公開時期が夏休みの終りになってしまうのは惜しいけれども)。

もちろん、「スター・トレック」のオールドファンなら、一人でじっくりと楽しむというのも悪くない選択。終わったときには周囲を気にせず拍手喝采できる。でも、劇場を出たあとに、旧作の薀蓄を踏まえた感想戦を戦わせる相手を見つけたくてうずうずするかもしれない。今の自分みたいに。