娯楽路線の呪縛の始まり―『007ダイヤモンドは永遠に』

007シリーズ映画第6作『女王陛下の007』シリーズは興行的には失敗に終わった。これは、新ボンド役としてデビューを飾ったジョージ・レーゼンビーに冷水をかける出来事となった。

また、別の観点から見れば、共同プロデューサーであったハリー・サルツマンとアルバート・R・ブロッコリの間での路線の違いがあった中で、サルツマンが主導した『女王陛下の007』のシリアス路線が支持されなかったことを意味した。この後、ブロッコリが主導権を握ることで、一気にエンタテインメント路線、もっと言えば、コミカル路線へと転換していく。

ということで、第7作の『007ダイヤモンドは永遠に』はショーン・コネリーの登場作品である以上に、ブロッコリ路線の映画である。

ストーリーは以下の通り。

ある日、大量のダイヤモンドが密輸され、ボンドはその密輸ルートを解明する任務へ就くことに。運び屋に扮したボンドはアメリカへの密輸団に潜入、そこで出会ったティファニーを上手く味方につけ、調査を進めていく。やがて、ダイヤモンドが大量に散りばめられた人工衛星を発見、さらに宿敵スペクターのブロフェルドが密輸一味の黒幕だと判明する。その人工衛星を打ち上げ、ダイヤの反射を利用した強力なレーザー光線を世界各地へ放射するという脅威で地球征服を目論むブロフェルドを倒すべく立ち向かうボンドだが…。

この路線は、ロジャー・ムーアティモシー・ダルトンピアース・ブロスナンと引き継がれていく。ブロスナン最後の作品となった『ダイ・アナザー・デイ』でも「宇宙からの光線発射で世界征服を狙う悪の組織とそれを阻む我らがジェームズボンド」という荒唐無稽な図式は共通。

ダニエル・クレイグの『カジノロワイヤル』でシリアル路線に転換するまで実に35年もの間、007シリーズを呪縛し続けたのだから、その罪は重いと言わざるを得ない。

内容的には、アクションにキレのなくなったショーン・コネリー(ただしセリフ回しは素晴らしい)、大味になった脚本、間延びした演出、アメ車になって品のなくなったボンドカー、計画性もなく凄みもないスペクターなど、現在の観点で評価するといいことなし。だが、これでも興行的には大成功したというのだから、007シリーズというのが大人向けの「肩のこらない」娯楽大作という性質を期待されていたをことを証明する結果となった。

ということで、ダニエル・クレイグ版ボンドから始まり、ショーン・コネリー版ボンドに遡って全10作品を集中鑑賞してきたが、ちょっと食傷気味になってきた。このインプレもいったん終わらせようと思う。

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