ちょっと君や僕に似てやしないか―朝井リョウ『何者』

Doesn't have a point of view
Knows not where he's going to
Isn't he a bit like you and me?

自分の意見と言うものがなく
自分がどっちに向っているかも分からない
ちょっと君や僕に似てやしないか
("Nowhere man"The Beatles

朝井リョウ『何者』を読んだ。就活中の大学生の群像劇。男女の恋愛模様、就活を巡るドラマ、バンドや演劇活動をモチーフに、生身の人間とtwitterのアカウントが交錯する。

現実と理想。見せたい自分と本当の自分。ギャップをじわじわとえぐるように物語は進んでいく。少し前に話題となった「意識高い系」の人物もいれば、それを冷やかに観察する人物もいる。

「意識高い系」はときに痛々しい。だが、そんな「意識高い系」を批判的に眺めている彼はどうなのか。

ジョン・レノンの時代のNowhere manはどこにも居場所がなかった。だが、いまのNowhere manにはネットという居場所がある。twitterでアカウントを作って呟けば、そこは彼の王国というわけだ。

で、そんな彼は、ちょっと君や僕に似てやしないか。その通り。ジョンの言葉は時代を超えて僕の胸に突き刺さる。僕に似ているよ、たぶん。

ということで、自分にとっては、大学生時代とか、就活とか、もう昔のことのようだ。それに、そのころはESもグルディスもtwitterもなかった。でも、この『何者』は、時代を超えた普遍的なテーマが描かれている。それは「自分は何者なのか」というアイデンティティ・クライシスであり、そこでもがく人々の姿である。

大学生の生態はとてもリアルであるし、終盤には思いがけないサプライズも用意されている。かつての自分の姿を投影しながら、いや、あるいは今の自分の姿にも重ね合わせながら、久しぶりに夢中になって読んだ。

最近読んだ村上春樹の書下ろし『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』の方はどうにも没入できない感じがあり、そこに登場する大学生男女の人間関係にもあまりリアリティがなかったが、『何者』の方には、読んでいて恥ずかしくなるくらいのどうしようもないリアリティを感じた。

映像化が難しい、あるいは、映像化すると面白さが半減してしまう性質の作品ではあるが、それでも良いキャスティングで映画化されたらいいなと思った。いや、こんな感想を書くと、「お前こそ何者?」と言われそうだけど。

何者

何者