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向田邦子のよう―『式の前日』穂積

書籍 おたく

穂積のデビュー短編集『式の前日』を読む。

表題作の「式の前日」は短いながらも強い余韻を残す話だが、その次に収録されている「あずさ2号で再会」もまた心温まる話。

この作家の場合、あらすじ自体がネタバレになりかねず、それによって感動が減じられることもあるので、以下、漠然と感想を記しておく。

生きることは喪うことだ。人は生きていくときに、何か/誰かを喪うことを決して避けられない。だが、喪うということは、ただ単純に貧しくなるということを意味しているわけではない。喪失をきちんと受け止め、心の中で消化し、それを心豊かに変えていくことも、きっとできる。特に、肉親と離れる場合には、それを消化するのはなかなか簡単なことではないけれども。

その簡単ではない「喪失から逃げることなく、ポジティブに転化して生きる」ことが、穂積の作品が発しているメッセージであるように思われる。この作家は、一見すると淡々とした醒めた視点を貫いているが、その裏には人一倍温かい心を持って人物を描いていることがわかる。

この読後感は、まるで向田邦子の作品のようだ。そういえば、『式の前日』というタイトルのつけ方も、どことなく向田邦子っぽいように思える。

短編を紡ぎだす手腕には素晴らしいものがあると思うが、長い物語も読みたくさせられる作家である。今後の活躍が楽しみ。この作品は「少女マンガ」の枠に収まるものではないと思うし、そのようなラベルを貼って読者層を限定してしまうのはちょっと勿体ない。

式の前日 (フラワーコミックス)

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