エクサンプロヴァンス音楽祭2012年『フィガロの結婚』

今年のエクサンプロヴァンス音楽祭の目玉は、モーツァルトの『フィガロの結婚』。彼の喜劇オペラの最高傑作だが、なんと現代設定にアレンジ。ちょっと前に『ドン・ジョバンニ』でも現代劇にしたのがあったが、流行なんだろうか。

冒頭の家具を運び入れるシーンは、伯爵ならぬ「社長」の資料室で作業をする社員達になっている。スーツ姿のフィガロがメジャーを持って寸法を測るという、そこにタイトスカートにベールをかぶったスザンナが登場。お決まりのシーンだが、コスチュームが現代風になっただけでここまで印象が変わるとは。

そして『フィガロ』の萌えキャラといえば、小姓のケルビーノ。原作でも細身な男装女子っぷりが目を引くが、本作でも、眼鏡・ショートカット。第一幕の「もう飛ぶまいぞこの蝶々」ではマッチョなフィガロにスーツを脱がてべそをかくヘタレっぷり。なんという倒錯。作り手は「わかっている」としか言いようがない。

第二幕の目玉のアリア「恋とはどんなものかしら」では、ケルビーノはズボンを脱がされた姿で歌い始める。最初は恥ずかしそうに、最後には堂々と。その姿は、劇中の女性たちだけでなく、観客をも魅了する。このケルビーノだけでも一見の価値あり。フランスの美人という基準では一般的にはスザンヌの方に軍配があがると思われるが、劇中の視線は完全にケルビーノに釘付け。

第四幕の「終曲」はさすがにスリリング。夜の闇の中で登場人物達が出会い、仲直りをして、一件落着という場面だが、ここでもケルビーノが出ることで俄然盛り上げる。というか、僕がケルビーノしか見ていないからかもしれない。フィナーレは、現代劇となったためで衣装も背景もちょっと地味ではないかという印象も残る。だが、今回の斬新な試みは全体として成功しているのではないかと思う。