2012年2月27日、元朝日新聞編集委員の田中三蔵さんが亡くなった。享年63歳。死因は膵臓がんだった。
三蔵さん、とあえて書くのは、故人との親密な関係を誇示するためではない。彼のことは誰もが親しみをこめて「三蔵さん」と呼んでいた。まさにご人徳だ。その事実を、気取りや衒いで修正したくないのだ。
彼は東京芸術大学芸術学科を卒業後、朝日新聞学芸部の美術担当を中心にご活躍されていた。あるイベントがきっかけでご縁があり、以来の20年ほどお付き合いをさせて頂いていた。昨年、がん治療の合間にもお会いしたのだが、まさか一年も経たないうちに早すぎるお別れをすることになろうとは。
三蔵さんからはいろいろなものを教わった。芸術鑑賞。情報収集。人脈形成。そう。彼の周りには実にいろいろな才能が集まっていた。僕はごく普通の一般人だが、三蔵さんの近くにいるだけで、いろいろなアーティストと知り合うことができた。
僕は思う。もし彼と出会っていなかったら、絵画や映像作品にどこまで興味を持っていただろうかと。少なくとも、現代美術からは距離を置いていたに違いない。「よくわからない」と。自分がモダンアート好きになったのは、三蔵さんの影響をもろに受けてしまったせいだと思う。
それだけではない。三蔵さんからもっとも学んだものは、飄々としたユーモアの感覚だ。どんなに切羽詰った状況であっても客観的に自分を見る自分がいて、その状況を笑えるくらいに落ち着いていること。「お別れの会」では、三蔵さんの似顔絵入りのどらやきが配られた。実に三蔵さんらしいお別れではないか。
結果的には、2010年に出版された評論集『駆けぬける現代美術』が遺作となった。評論だけでなく教育の場でも、今後もっと活躍されただろうことを思うと63歳はいかにも若すぎる。が、ともかくこのような集大成を残してくれたことに感謝せざるを得ない。
三蔵さん、ありがとうございました。謹んでご冥福をお祈りします。
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