真っ当な本だが宣伝方法は疑問―『世界史』(W.H.マクニール)

巷で話題のマクニールによる『世界史』を読んだ。オビには「東大・早大・慶應で文庫ランキング1位!」、書店パネルには「たった2冊で大丈夫」「世界史を理解する最後のチャンスです」と。

結論から言えば、世界史の大まかな流れを掴む視座を与えてくれる有益な書物だとは思う。ある地域でのある道具の発明や普及が、他の地域にどのような影響を及ぼしたか、というような観点が中心。タイプとしてはジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』に近い本だ。

ただ、多少なりとも世界史に興味のある人であれば、世界史というものを、「何年に誰が何をしたか」という無味乾燥な知識の断片としてではなく、大きな流れの中である種の構造を持つというような捉え方をしているのではないか思う。この点については、本書は極めて真っ当であるのだが、いくらなんでも「世界史を理解する最後のチャンス」というのは、ちょっと誇大広告ではないか。この宣伝方法には疑問なしとしない。

また、マクニールの提供する視座は、あくまで彼の史観によるものであり、中には十分な検証が行われていない仮説レベルのものも含む。また、第二次世界大戦後の歴史の解釈については、十分に時代の評価を得ていないものもある。ということで、ある程度批判的に読めることが前提となってくる。その意味でも、実は読者を選ぶ本ではないかと思う。

世界史 上 (中公文庫 マ 10-3)

世界史 上 (中公文庫 マ 10-3)


世界史 下 (中公文庫 マ 10-4)

世界史 下 (中公文庫 マ 10-4)