映画愛あふれる大人向け作品―『ヒューゴの不思議な発明』

まず記しておくべきは、これはこども向けではない。100%大人のための映画だ。

公式サイト:大ヒット上映中 映画『ヒューゴの不思議な発明』公式サイト

オープニングは見事。時計の歯車がパリ市内の鳥瞰風景に変わり、その後、駅の内部構造を抉るようにカメラが移動する。なんとも心躍る導入部で、観る者は冒頭から作品世界に引き込まれる。

本作品の真の主人公は、フランスの映画草創期において活躍したジョルジュ・メリエス。彼の最も有名な作品は『月世界旅行』である。どのような作品であったかは、この映画を見れば分かる。劇中劇として。そして、3Dという技術の必然性をこれほど感じさせる作品はない。

アカデミー賞で撮影賞、美術賞、視覚効果賞、録音賞、音響編集賞を受賞。大御所のスコセッシ監督がこだわり抜いて3D作品として世に送り出しただけはある。

本作は、『ハリーポッター』と並ぶようなファンタジー映画とは、全く違う。主役は子供であるが、ある男の映画に対する愛を称えた作品だ。その点で、引き合いに出される作品があるとすれば、『ニューシネマパラダイス』の方がふさわしい。アカデミー賞のノミネートは、この作品の制作スタッフの「映画愛」に対してのものであると思う。そして、この作品がこだわり抜いた撮影、美術賞、視覚効果に対する職人的な仕事ををきちんと評価して賞を与えている点で、本場のアカデミー賞は捨てたものではないと思う。日本アカデミー賞が、今回、作品賞、監督賞、脚本賞、主演女優賞をはじめとして、音楽賞、編集賞、録音賞、照明賞、撮影賞を全て同一の作品(『八日目の蝉』)に与えたのとは大違いだ。

本題に戻ろう。『ヒューゴの不思議な発明』は、どの場面も、どのキャラクターも、まるで必要な部品だけが集まって歯車が噛み合うように、完璧な調和を為している。ジョルジュ・メリエスを演じたベン・キングズレーの存在があっての重厚感だが、子役二人の動きのある演技がストーリーを牽引した。ヒューゴ役のエイサ・バターフィールドはやや癖のある表情を見せるが、この役には合っていたと思う。クロエ・グレース・モレッツは、ベレー帽とボーダーのセーターですっかりパリジェンヌ。『キック・アス』のヒット・ガールの頃からは大分成長しているが、表情の豊かさに磨きがかかっていて、嬉しくなった。ええ、贔屓入ってますが、何か。そして忘れらない印象を残すのは、鉄道公安官役のサシャ・バロン・コーエン。単なる「わからずやの大人」的な悪役で終わらないところがよい。

スコセッシ監督は、3Dという技術を「子供騙し」にはせず大人のための映画作品にまで高めた。スピルバーグの手掛けた『タンタンの冒険 ユニコーン号の秘密』が完全お子様向けCG映画になったのとは対極にある。今回のスコセッシの取り組みは、映画草創期にさまざまな技法を導入したジョルジュ・メリエスへのリスペクトなのだろう。スコセッシ監督、69歳でこれを作るのだから、本当に素敵過ぎる。