絶妙な世代交替?―『スタートレック』

2009年に公開された『スタートレック』を観た。

スター・トレック [Blu-ray]

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これは『バットマン・ビギンズ』や『猿の惑星:創世記』と同様、人気シリーズの「始まり」を描いた作品であり、キャスティングも一新されている。

スタートレック』シリーズは、映画版・TV版・小説版等の壮大な体系を持ったシリーズであり、「トレッキー」とも呼ばれる熱狂的なファンが多いことでも知られる。そのような作品の「始まり」を新しいキャスティングで作るのだから、ハードルが高いことは容易に想像される。だが、監督のJ・J・エイブラムスは見事にそれを成し遂げたのではないかという出来の良さだった。

勝因はどこにあるのか。

まずは過去の作品群を研究し、設定に矛盾のないシナリオを練ったことだろう。その上で、時間を遡る設定が巧妙に取り入れられ、別の量子世界に入っていることも脚本の自由度を高め、今後の続編への可能性をつないでいる。総じて、スタートレックらしい、センスオブワンダーに満ちた「王道SF」の雰囲気に満ちているのが良い。

次に映像美。21世紀の宇宙映画に相応しい美しくスタイリッシュな映像は、20世紀からずいぶんと進化している。古い作品には古い作品なりの良さがあるが、未来を描いたSFはやはりCGを多用した新しい映像でより魅力的になる。

最後にゴリ押し感のないキャスティング。トップスターの起用ありきではなく、原作の俳優陣に似た雰囲気のキャスティングを優先したと思われるところに好感が持てる(それでも、主演のクリス・パインなどは十分に現代的でかっこいい)。

このキャスティングで新シリーズが作られるかどうかは未定のようだ。だが、この作品が十分に魅力的に仕上がったことで、その可能性は大いにあるのではないか。そうなれば、世代交代に絶妙に成功した作品だと位置付けられよう。

なお、世代交代ということでいえば、旧作を知る観客を歓喜させるプレゼントも劇中に用意されていた。オールドファンの心をも掴む粋な仕掛けだと思う。