シソウノチカラ―『思想地図β』vol.2

ポストモダンの海の中に、動物のように本能のままに漂う。それが震災前の僕らだった。
 膨大なデータベースから順列組み合わせ的に生成される美少女キャラを見ながら、2ちゃんやニコニコ動画に「○○ちゃん、ブヒィィ」とコメントして一体感を感じる。それが震災前の僕らだった。かなり戯画的に言えば。

だが、すべては震災で変わってしまった。このことを、東浩紀は本誌の巻頭言でこう描写する。「震災でぼくたちはばらばらになってしまった」と。竹熊健太郎は別の言い方でこう表現している。「終わりなき日常が終わった」と。

たとえ昔のように「キター!」というコメントがシンクロしたとしても、僕たちは心の底では虚しさを感じるようになってしまった。地震で、津波で、原発で、多くのものを失ったあとで、僕らは再び一体になれるのだろうか。

もはや、アニメを観ることや、Amazonでモノを注文することで、僕らはひとつになれない。いや、もしかしたら、震災以前から僕らはばらばらだったのかもしれない。同じアニメを観ているということで、そのばらばらだという事実が隠蔽されてきたのかもしれない。僕らの側もそういう現実から目を背けてきただけなのかもしれない。

だが、震災は打撃を与え、すべてを白日のものにさらけ出した。よいところも、悪いところも。募金・物資支援、ツイッターを通じた情報拡散、ボランティアもあった。一方で、情報隠蔽やデマの流布、そして復興に関する政府の混乱もあった。僕らは本当に一体になれるのだろうか。

答はもちろんYESとはいかない。事態はそんなに楽観視できない。ここで東は有言実行だ。思想があるじゃないかと。思想の力で僕らはひとつになれるのではないかと。「思想」という単語にもし抵抗があれば、「言葉」と置き換えてもいいかもしれない。東が本誌で示したのは、そんな風に震災後の僕らをつなぎとめることができる思想の数々だ。

登場する執筆者(含む対談者)は以下の通り。震災を「思想」という切り口から語るには十分なメンバーだろう。ちなみに本誌の価格の3分の1にあたる635円が義援金になると記されている。この点でも東は有言実行だ。

僕は東の活動を見てきてはいるが、けっして彼の信者ではない。だが、今回のこの直球ど真ん中の取り組みには、賛意と支持を表明したい。

思想地図β vol.2 震災以後

思想地図β vol.2 震災以後