嘘も100回言えば真実となるか―日経の誤報問題

日立製作所三菱重工が統合」という日経の誤報の問題については昨日のエントリー(日経による統合「スクープ」とは一体何なのか - Sharpのアンシャープ日記)であらかた書いた。だが、日経は訂正する風情もなく、むしろ自己正当化に走っているように見える。

8月5日の日経社説「「日立・三菱重」統合を産業再興の一歩に」はこういう書き出しで始まっている。

日立製作所三菱重工業の決断を日本の産業力復活の呼び水にしたい。保守的とされてきた両社が将来の経営統合を視野に主力事業の統合協議を始める。今回の大型再編の動きを機に、他の企業も競争力強化へ思い切った手を打ってほしい。

「決断」が既成事実なのか、これから起こることなのか不明の悪文。もちろん意図的な悪文だろう。さらに、三菱重工が否定し抗議しているのに「将来の経営統合を視野に」と書く。言論の暴力という他はない。「嘘も100回言えば真実となる」というのは、ナチスの宣伝層のゲッベルスの言葉と伝えられているが、日経の今回の必死さは、ナチスのプロパガンダのこの言葉を思い起こさせる。

昨日の「大誤報」で日経が何をしたかったのかは分からない。報道後に起こったことは、株価の変動と、交渉の難航だが、日経の意図はそこにはなかった。社説で大真面目に「今回の大型再編の動きを機に、他の企業も競争力強化へ思い切った手を打ってほしい」と言っているくらいだから、「スクープ」記事を載せることで交渉を難航させるつもりはなかったのだろう。

それならなおさらタチが悪い。デリケートな交渉の途中で片方からのリークでこのような記事を書くことで、両者の信頼関係を修復不能なまでに悪化させる可能性があることを認識していなかったのだろうか。報道機関が誘拐に関する報道を事件解決まで差し控えているのは何のためなのか理解していれば、そのことは当然に推察できるはずだが。

地獄への道は善意で敷き詰められている。「誘拐を報道することで事件は解決に向かう」と思って報道すれば、結果的に人質が殺されるリスクは高まる。「統合交渉を報道することで交渉は成功に向かう」と思って報道すれば、交渉が破断に向かうリスクは高まる。日経はこのことを理解していたか。

「今回の大型再編の動きを機に、他の企業も競争力強化へ思い切った手を打ってほしい」などと上から目線を気取ってみても、日経の愚かさは取り繕えない。ますます滑稽なだけだ。その「善意」が(これがポーズでないのであれば)、日本を「地獄」に導きかねない。そのくらい日経の罪は重い。

かりに「善意」ではなく、自らの「誤報」を糊塗するために嘘を100回言おうとしているのであれば、こういうプロパガンダは許されるべきではない。今後も続くようであれば、報道機関としての信頼性は大きく揺らぐ。日経の購読中止を真剣に検討してもいいかもしれない。

最後に一つだけ。日経の記事には「経営統合が実現すると、国内の製造業では売上高でトヨタ自動車に次ぐ規模になる」とある。かりに近い将来、両社が一部の事業の統合に合意したとしても、日経の報じた「経営統合」ではない。その時点で、日経は誤報だという訂正をするのか、それとも自己正当化をするのか。ま、予想は付くけど(まさかとは思うけど、最初から経営統合と事業統合の区別があいまいなままに記事を載せたとかいうことはない…よね?)。