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日経による統合「スクープ」とは一体何なのか

日立製作所三菱重工が統合」というスクープ風のセンセーショナルな見出しに、普段新聞を読まない人も4日の日経朝刊を売店で買った人は少なくなかったようだ。日経も「売らんかな」のメディアに成り下がったのか。新聞が売れれば、国益を害してもよいというところまで落ちたのか。

日立製作所三菱重工業は経営統合へ向け協議を始めることで基本合意した。2013年春に新会社を設立、両社の主力である社会インフラ事業などを統合する。
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3日までに両社首脳が会談し、基本合意した。4日午後に発表する。
:日本経済新聞

日経は「4日午後に発表する」とまで言い切った。よほどの自信があったのだろう。だが、三菱重工から4日午後に出た声明は「合意する予定もない。報道に断固抗議する」というものであった。であれば、これは「スクープ」ではなくて「誤報」だと言うしかない。

今回に限らず、この手の報道で日経は何がしたいのだろうと疑問に思う。スクープか。だが、早まった報道は、デリケートな交渉に水を差し、時に破談をもたらす。いまや、通産省や銀行がシナリオを書いていた戦後復興期とは違うのだ。新聞はいつまでも昭和のままの頭の切り替えをしなくてはならない。今回のように、スクープだと思った記事を流すことで、当事者の交渉をぶち壊し、自己実現の反対の方向に働くことは十分に起こりうる。つまり、あの報道さえなければ、そうなったのにと。今回の日経の報道がそのようになる可能性は大いにある。

日経は誰かに利用されているのかもしれない。今回の三菱重工の頑なな反発を見るに、リークしたのが日立側の人間であるという可能性が高そうだ。日立側は、難航する交渉を有利に運ぼうと日経にリークし、世論と株価のポジティブな反応を引き出そうと考えたのではないか(個人的にはそんな戦術は愚かだと思うが)。となると、統合交渉の片方に利用された日経はまるで道化師ではないか。利用する方も愚かだが、利用される方はもっと愚かだ。

破断になった場合、日経の言うような「両社が統合しグローバル展開に挑むことで、日本の製造業が競争力を取り戻す転換点となりそうだ」というシナリオは実現しない。自分たちのスクープ狙いの報道のせいで。日経が信用を失うのは自業自得。だが、彼ら2社の統合をご破産にしただけでは問題は終わらない。日本の産業の競争力強化のチャンスを壊したのだ。国益を損なったのだ。それが勇み足の報道のせいであったときに、メディアは何らかの責任を取るのだろうか。いや、取るはずもない。そもそも損なった国益を賠償する責任など、メディアに取れるはずもない。

株価への影響も見過ごせない。「日経平均」という株価指数にかかわっているとはいえ、日経が主体的に株価操作まがいのことを意図的にしているとは思いたくない。だが、統合の報道で間違いなく両社の株価は上がると予想される。そして、事実その方向に動いた。午後になって三菱重工が否定的なコメントを出すと、株価は反落した。「早くも統合に不協和音」との解説付きで。婚約はおろか、付き合っているかどうかも分からない状況で、不協和音も何もあったものではないのだが。

さらに、株価という点では、インサイダー取引との関係も見過ごせない。日経が得た情報が企業にとって重要な決定事項であれば、インサイダー情報そのものではないか。それならそれで、法令や規則を遵守して企業が公表するまで伝達を差し控えるべきものであって、不特定多数の読者に報道するべきではない。逆に、決定事項ではなくてあくまで推測だというのであれば、それならそれで今度は「風説の流布」になるおそれがある。どっちに転ぼうとも、上場企業の統合に関する重要な情報を公表前に「スクープ」と称して報道するのは、市場の健全性という観点で全く良いことはない。経済紙を自称する新聞がこの体たらくでは、日本のマスメディアのレベルが推し量れるというものだ。

今回の報道は「大いなる誤報」だろうと思うが、万が一にもこのような記事が「スクープ」として評価されることがあるから、マスメディアは誤報を恐れずにこのような報道を続けるのだろう。これは、百害あって一利なし。企業統合に係る「スクープ」を評価しないようにすることが必要だ。それこそ、日本の産業の将来のためになることであり、健全で公正な株式市場のためだ。マスコミの功名心でそういう大義を妨げるようなことがあってはならない。