よくまとめたが愛が足りない−『ハリーポッターと死の秘宝PartII』

あれっ。
・・・『ハリーポッターと死の秘宝PartII』のエンドロールを見ながら思った。
10年、8作という大作の最後を飾るというのは、意外にこじんまりとまとまったという印象。もちろん破綻はない。だが、その代わりに愛もない。以下ネタバレ。

公式サイト:

最初に良いところを挙げよう。原作のエピソードをほぼ漏れなく網羅したこと。130分というコンパクトなサイズに収めたこと。そして3D上映の価値のある映像に仕上げたこと。

では次に物足りないところ。

まず何よりも最終決戦の盛り上がりが薄い。

ネビルは名乗りを上げたところで、まずベラトリックス・レストレンジらデスイーターから侮辱される必要がある。その直後、敵味方の全員の前で、真の勇者のみが召喚できる「グリフィンドールの剣」を組みわけ帽子から抜き出し、全員が見ている前でナギニを一刀両断にしなくてはならない。これこそが、「もう一人の預言の子」であり「もう一人のハリー・ポッター」であるネビル・ロングボトムの最大の見せ場であるべきだ。映画のように、その場面の目撃者が、ロンとハーマイオニーだけというのでは話にならない。ついでに言えば、ネビルがナギニを斬る場面の構図が悪く、迫力はもっぱらCG合成に頼っていたのも不満。

ハリー対ヴォルデモートも不満が残る。原作では、ヴォルデモート達がネビルに気を取られている隙に、ハリーは透明マントを纏って身を隠し、ネビルが「グリフィンドールの剣」を出すのと呼応するかのようなタイミングで、皆の前に出現しなくてはならない。タイトルの「死の秘宝」は3つの宝具なのに、最終決戦で透明マントだけを使わない理由があろうか。ヒーローは絶望の底から一気に希望の頂点に駆け上がるのだ。その後、ヴォルデモートと群集の面前で問答を繰り広げ「お前は誰にも愛されていない」とロゴスによる致命傷を与え、エクスペリアームスとアバダケタブラの呪文を打ち合うことで、ヴォルデモートに勝利しなくてはならない。それも全員の目の前で。皆の心の中からヴォルデモートを消し去ることこそ、ハリーに託された役割なのだから。

それから、ハリーは相手を攻撃しないというポリシーも貫いてほしかった。ヴォルデモートは、ニワトコの杖の主人が誰であるのかを見誤ったことで、自分の呪文が跳ね返って死ぬのだ。それこそが彼の真の敗因。その描写も弱い。『炎のゴブレット』のときには、両者の杖は「兄弟杖」であったがゆえに繋がってしまったが、今回二人の杖が繋がるように見えたのは、大いに違和感があった。ハリーはあくまで「武装解除」で敵の戦闘能力を無力化する戦い方を貫き、ヴォルデモートは己の慢心によって自滅した。それを忠実に描いてほしかった。

あとは蛇足だが、細部での不満を思いつくままに。

ハリー・ポッター」の物語の真の主人公とも言えるスネイプ。アラン・リックマンの演技は本当に素晴らしいものだった。が、ヤング・スネイプがかっこよすぎではないか。

それから、ラスト近く、ハリーがダンブルドアと出会う場所(キングス・クロス駅風の白い空間)では、ハリーに宿っていたヴォルデモートの欠片がグロい存在となっていたが、それと引き換えに、額の「傷」が消えたことをきちんと説明的に描写すべきだった。

あと、ニワトコの杖を二つに折って、ガレキの中に投げ捨てるのも相当の違和感がある。あれはダンブルドアの遺品ではないか。「この杖のことは僕たちだけの心の中に留めておこう。この杖のことを誰かが知れば、きっと新しい悲劇が生まれる。ダンブルドアの墓にそっと返しに行こう。」とだけ言えばいい。

また、19年後、ネビルに言及がなかったのはどういうことか。これも一言でいい。ハリーが子供に言う台詞に加えるだけだ。「ホグワーツに着いたら、ネビル先生によろしく伝えてくれ」と。

あとは、ルーピンを始めとする騎士団のメンバーがどうやって死んだのかとか描いてほしかったりもする。それを描写せずに、モリーがどういう想いでベラトリックス・レストレンジを追い詰めて、彼女に勝ったのか、理解できないではないか。

同じく「因果」という点では、ワームテールが死んだ場面が出てこなかったのは残念。本来、PartIでケリを付けておくべきだったのだろうけど。

いずれも、瑣末なところは130分に収めるためと思えば許せる。が、最終決戦だけはもっと別の形でやれたはずだと思う。

長い長いエンドロールは、曲も退屈で、画面もひたすらスタッフの名前を流すだけだった。曲は、ジョン・ウィリアムズが降りてからは仕方ないが、どうせなら、総集編的に『賢者の石』から『謎のプリンス』あたりの映像を時系列順に挿入していってほしかった。19年後のホグワーツ特急の場面を、ハリー・ロン・ハーマイオニーの出会いの場面に繋げるなんていうのは、ベタかもしれないけど、真っ黒の画面を延々と見せられるよりはずっとマシだ。

…と、愛のあるファンからするとやや厳しい感想になってしまうが、大作の最後としては悪くないまとまりだったと思う。少なからぬ俳優陣の容貌がそれなりに変わる中で、なんとか無事にクランクアップできたのは喜ばしいことかもしれない。いや、喜ばしいとはちょっと違う。ハリ・ポッターシリーズが終わってしまったことで、これから何を楽しみにして生きていこうかと気持ちだ。この点で、スター・ウォーズロード・オブ・ザ・リング並の喪失感だ。ありがとう。さようなら。ハリー・ポッター・シリーズ