危機であっても立ち位置を誤ってはならない

危機のときにこそ本質が現れる。危機を乗り越えるために無用な論争は避けるべきだが、民主党政権が立ち位置を誤るようなことあってはならない。どうしても気になった点を備忘録的に残しておく。

「撤退したときは東電は100%潰れます」
菅直人首相

今回の原発の事故により、企業としての東電の債務不履行リスクは高まった。その意味では「潰れる」確率は高くなっている。だが、潰れるかどうかを決めるのは、債権者または債務者である東電自身であって、政府でも総理大臣でもない。

逆に、もし総理大臣なら「東電の株価は暴落し、電力債の発行も難しいだろう。今後多額の資金調達が必要になるが、民間銀行は融資に応じるだろうか。かりにも東電が資金繰り難で事業に支障を来たしたら、関東の電力供給はどうなるのか」というリスクに思い至るべきだ。

そして、少し考えれば、そういうシナシオを回避することこそが、いまの政府に必要な役割であることに気付くはずだ。

「(東京消防庁の隊員に向かって)速やかにやらなければ処分する」
海江田万里経産相

一国の大臣が東京都の下部組織に「処分」を仄めかすとは、本来なら越権行為だ。

百歩譲って、緊急時ゆえに強権発動が容認されるにしても、強権は正しく発動されなければならない。ホースの経路や放水時間の延長などで、現場の意見を軽視した指示を下ろしてはならない。

自らの無謬性を前提にした強権発動は、現場の志気を下げるだけでなく、犠牲を大きくするリスクがあり、厳にこれを戒めるべきだ。海江田は後日謝罪しているが、「大臣の命令を聞かない奴はクビだ」的な体質はまた出てこないとも限らない。「政治主導」ではなく「独裁」であれば、21世紀の日本にそんなものは必要ない。

「(東京電力の計画停電について)不公平があってはいけない」
海江田万里経産相

思わず耳を疑った。節電啓発等担当大臣の発言かと耳を疑った。経済産業大臣というのは、限られた資源(電力)を日本の経済産業のためにどう使うのが最適であるのかを検討し、最適資源配分に基づく電力供給を電力会社に指示すべきである。

首都圏の産業の集積度が均質でないことを踏まえれば、必要な箇所に優先的に資源を回した結果として「不公平」が起きることは十分にあり得る。経産相はそのことを国民に説明するくらいでなくてはいけない。

まさか大臣が「一億総停電」を理想にしているとは思いたくないが、「効率」よりも「公平」を優先すれば経済が停滞していくことは、20世紀後半の歴史が示している通りだ。

未曾有の災害にあたる政府は個々の対処で間違うこともある。それは国民としても大目に見よう。だが、政府は根本的な立ち位置を間違ってはならない。