クリストファー・ノーラン監督作品としては、『メメント』と『インセプション』は鑑賞したが、『バットマンビギンズ』と『ダークナイト』は敬遠していた。
『メメント』の息をつかせぬ展開、パズルような謎解き、スタイリッシュな映像が好きだったが、何よりも大げさでない小粋なセンスがよかった。最新作の『インセプション』では、超展開、謎解き、映像美という要素は健在であったが、キャスティングや、ロケーション、特殊効果で、なんとも「大作主義」みたいなものが感じられた。ノーラン監督は変わってしまったのか?
この謎を解くために『バットマンビギンズ』と『ダークナイト』のBlu-rayを購入して鑑賞することにした。まずは『バットマンビギンズ』。
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まず、この話がいつどうやってバットマンにつながるんだろうというくらい長い導入部。主人公のブルースが世界を放浪する中で、雪山が出てきたり、渡辺謙が出てきたり、東洋風の豪華な建物の中でドンパチが始まったり。そう。いずれも『インセプション』につながるモチーフだ。渡辺謙の存在感はこの頃から凄いが、秒殺されてしまったのが残念。いや、だからこそ強い印象を残すのだが。
あとは、主人公のブルースが実業家として成功した父親に対して強いコンプレックスを抱いているところも『インセプション』のストーリーに通じる。ブルースはこのコンプレックスを「父の遺産を生かして悪と戦うバットマンになる」というように昇華させる。この辺の「悩んで、逃げて、それでも戻ってくる」という心理描写が秀逸。ヒーローを生んだのは、父親へのコンプレックスだったと言える。この点、エヴァのシンジ君ももしゲンドウが死んでいれば「父の作ったエヴァを使って世界を変える」となったかもしれないな。っと、脱線。
ちなみに、バットマンのモチーフであるコウモリは主人公にとっては恐怖の象徴。だが、そのコウモリをあえて取り入れることで、自らは恐怖を克服し、敵には恐怖を与えるという。これも父親コンプレックスと関連付けられるのかもしれないが、いまは備忘録的に書いておくだけにしよう。
さて、次はメカというかギミック。最先端技術を駆使して、バットスーツやバットモービルを試行錯誤しながら開発するところは、たまらなく良い。最初から完成品ができるわけではなく、戦闘を重ねる中で改良するところとか、おたく的には燃えるシチュだ。この辺の理屈っぽいギミックは、『インセプション』の夢の階層設定に通じると言えなくもない。両方とも実は荒唐無稽なのに、作品中では突っ込まないのがお約束となっているところも。
しかし、『バットマン』の設定の方は視聴者になじみがあるのに対して『インセプション』の夢の設定の方はなじみがないので、入りにくくて置いてけぼりを食いやすい。「夢の第三階層」とか言われても・・・みたいな。でも、この作品では、監督のこだわりがエンタテインメント的には良い方向で発揮されている。
さて、俳優陣。バットマンになるブルース役のクリスチャン・ベールは陰りのあるダークヒーローにぴったり。だが、この作品は脇役が充実。執事役のマイケル・ケインや、会社の化学部門トップ役のモーガン・フリードマン、そして盟友となる警官役ゲーリー・オールドマン。いやあ、ゲーリー・オールドマンも実直で誠実な役を演じるんだな。どこかに裏がないか気になりながら見ていたよ。。。
ということで、「ブルース少年はいかにしてバットマンになったか」を描く作品としては上出来。だがあえて厳しいことを言えば、エンタテインメントとしてよく出来てはいる。その意味では『インセプション』で感じた「大作主義」的なものはここから始まっているんだろう。ノーラン・ビギンズ。だが、まだ観るものを圧倒するところまでは達していない。そのレベルに行くには、続編となる『ダークナイト』を待たなくてはならない。