猪木武徳『戦後世界経済史―自由と平等の視点から』を読んだ。
- 作者: 猪木武徳
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2009/05
- メディア: 新書
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文字通り戦後の世界経済史を新書一冊にまとめたもの。だが、巻末の参考文献の多さを見れば、この一冊が生まれるまでに著者が膨大な文献を読み、それを自身の問題意識を元に再構築したことが窺える。
この本には、表もグラフもない。経済史の本とはいえ、経済書には珍しい。その代わりに、著者の問題意識が強く根底を貫いているので、読んでいて全く退屈しない。むしろ、読み手を鋭く刺激する。
その問題意識とは、副題に現れている通り「自由と平等」だ。自由がなければ経済は発展しない。だが、行き過ぎた自由は基盤を不安定にする。そこで平等が追求される。だが、平等ばかりが追い求められることになれば、経済は停滞する。戦後の世界経済の歴史はまさにそのことを示している。
では、今、自由を求めるのか、平等を求めるのか。もちろん両者は二者択一ではない。だが「両方とも大事」と括るほど簡単なことではない。状況次第で、つまり、国・地域によって、あるいは時代によっていずれを重視すべきか、最適な答は変わってくるのだろうと思う。
となると、質問を厳密にした方がよさそうだ。私たちはどこに向かうのか。今の日本には何が必要なのか。混迷する政治の中で、きちんとした視座を持たねばらなない。与党や、政府や、メディアに流されていてはいけない。歴史を正しく認識し、自分の意見を持って、あるべき価値を追求していく必要がある。
著者は最後にこう述べている。
日本のような経済の先進国でも、市民文化や国民の教育内容が劣化してゆけば、経済のパフォーマンス自体も瞬く間に貧弱になる危険性を示唆していると考えると、知育・徳育を中心にした教育問題こそこれからの世界経済の最大の課題であることは否定すべくもない。
まったくその通りだと思った。教育を疎かにすれば、経済の基盤はあっけなく劣化するだろう。
(…と書きつつ、この2週間で経済関係の本ばかり6冊も読んだから、当分他の本を読もうと思う)