格好の教科書〜『通貨で読み解く世界経済』

新書には「これしか内容がないのに本になっているのか」というものもある。一方で「この内容でこんなに安くてよいのか」と思えるものもある。この本は典型的な後者。1000円以下でこれだけのしっかりした内容が詰め込まれているのは良心的を通り越して奇跡的。大学教養課程の「世界経済」の講義の導入で使えそうなレベル。

通貨で読み解く世界経済―ドル、ユーロ、人民元、そして円 (中公新書)

通貨で読み解く世界経済―ドル、ユーロ、人民元、そして円 (中公新書)

良書かどうかは目次で分かるというのが僕の持論だけども、本書は各章の構成を見るだけでも只者でないことが分かる。

第1章 世界金融危機とマクロ経済政策
第2章 基軸通貨ドルの将来
第3章 ユーロの課題と展望
第4章 東アジアの台頭と人民元
第5章 円高と日本経済
第6章 国際金融システム改革

各章とも事実の記述、経済的な分析、そして著者の展望がきちんと示されている。一言でいえば、基軸通貨ドルがほかの通貨に取って変わられるというシナリオは当面現実的ではないという認識。妥当だと思う。最終章の「国際金融システム改革」ではIMFのSDRが決済に用いられる可能性についても検討されているけれども、無国籍な人工取引手段が普及することの難しさをエスペラント語を引き合いに出して論じている。なるほど。

ドルもユーロも人民元も円も、それぞれの拠って立つ経済基盤の固有の事情があり、それゆえに異なる強み・弱みを持つ。円については、デフレは続く、その限りにおいて円高基調は継続、介入したとしても効果なしと。まあそうだろう。このレベルの認識は共有した上で、日本が選ぶべき政策についての議論が望まれる。もちろん、財政とか金融だけでなく、国家戦略に関する議論が。