主演女優賞に値する松たか子〜『告白』

湊かなえの『告白』(原作のインプレはすべてが鬱になる〜湊かなえ『告白』 - Sharpのアンシャープ日記)が中島哲也の監督により映画化された。以下軽くネタバレ。

「告白」はすごい!

原作の鬱な要素と様式美は全部取り込んだ上で、映画という表現方法ならではの作品に仕上がっている。クリアな画面とフィルム風の粒子の使い分け、衝撃的な場面におけるCGの活用はもちろんだが、台詞、効果音、環境音、音楽といった聴覚に訴えてくるところも。いまさら書くまでもないが中島哲也は抜群に上手い。レディオ・ヘッドの「 Last Flowers 」が主題歌とかセンス良すぎる。いや、他の劇中歌もどれも衝撃的で効果的だったけれども。

さて、この作品ではやはり主演の松たか子の素晴らしさについて触れずにはいれない。娘を失った悲しみを抱え、心の闇をのぞかせながらも、抑えた演技で長台詞を淡々と吐き出しながら、物語を動かしていく。まるで舞台にいるように、彼女が劇場という空間を支配する。ああ、松たか子は映画でもこんな芝居ができるのか。すごい。気が早いがこの演技だけで今年の主演女優賞の最有力候補だ。

岡田将生は新任教師の役を快演。いつも涼しげな好青年ばかり演じていた岡田だが、暑苦しい役を上手く演じていた(それでもイケメンであることに変わりはないのだけれど)。木村佳乃も、彼女の持ち味である「明るく健康的」というイメージとは対極にある役だったが、表現の幅を広げる演技だったと思う(でも、一箇所だけ、シリアスな場面で「え”っ」という台詞があり、吹きそうになった)。

それから、37人の中学生たちもありがちな学園ドラマとは違って、雑然とした感じが実にリアルで良かった。特に重要な役を演じた、西井幸人藤原薫橋本愛は今後の活躍が期待されるが、特に西井幸人が良かった。美形で、内省的で、演技力もあって(…と思ったら、ミュージカル『黒執事』のシエルか、なるほど)。

で、この映画はお勧めかというと、万人に勧められるものではない。「すべてが鬱になる」原作に比べて、ストーリーの辻褄や登場人物の内面が補完されたとはいえ、人間の内面の闇を描いている作品であることに変わりはない。観ているだけで何だか激しく消耗するのは事実だし、暴力的な描写も少なくない(R15指定だし)。

だが、これは僕らの生きている世界に他ならない。その現実を見詰めたいということであれば、この作品はいろいろと考えるきっかけを与えてくれるだろう。原作が気に入っている人の期待も決して裏切らない。レディオ・ヘッドの音楽が好きな人にとってもこの音響は刺激的なはずだ。そして、松たか子好きにとっては、必見の作品。あ、これは僕のことだ。