結局は天吾と青豆の物語〜『1Q84(BOOK3)』

1Q84(BOOK3)』を読了。以下ネタバレ。

1Q84 BOOK 3

1Q84 BOOK 3

BOOK2を読了したとき、必ず続編が書かれると確信していた(この世界は200Qなのか〜『1Q84』 - Sharpのアンシャープ日記)。そして、今回のBOOK3で物語は一応の完結を見たと言える。その点では、期待通りだった。

BOOK1、BOOK2が「青豆」と「天吾」の章を交互に進んでいたのに対して、今回は「牛河」「青豆」「天吾」の3つの物語が順番に展開される。三つの点は最初は離れているが、お互いが求め合うことによって、縮小する三角形のように距離を縮めていく。そして、最後の一点に収束するときに物語が完結する。

青豆は自身の身体の変化に気付きながらも完璧な隠遁生活を続ける。天吾はふかえりを匿いながらも、意識不明の父親との関係に決着をつけるように千倉の病院に出向く。そして、教団の依頼を受け二人を捜し求める牛河。青豆と天吾の二人は危機や苦難を乗り越え、何かに導かれるようについに出会う。

この二人の出会うところは『国境の南、太陽の西』の終盤でハジメくんと島本さんが結ばれる場面を彷彿とさせる。だが、結ばれた翌日に島本さんが消えたのとは異なり、今回は青豆さんは消えたりはしない。彼女は既に不思議な力によって天吾の子供を身篭っているのだ。青豆と天吾は二人で力を合わせて「1Q84」の世界から脱出する。出口は、そうこの世界の入り口となった首都高の階段。

ちなみに、牛河はある人物によって生命を奪われることになるが、その死は宗教とどこかで結びついているようだ。深くは語られない。多くは語られない。あらゆる死というものがそうであるように。

物語的な決着のつけ方は『ねじまき鳥クロニクル』の第三部に似ている。閉塞した状況を打破するには、何らかの暴力が避けられない。だが、今回は主人公が手を汚すのではなく、主人公達を支援する人が力を貸してくれるだけだ。いや、厳密にはそんなに単純なものではないのだけれども。

ということで、物語はきちんと完結し、村上春樹は読書人の期待に応えたというべきだろう。しかし、BOOK1、BOOK2を読んでいるときに期待していたような「超常現象」に関する描写はやや後退してしまった感じがする。「ふかえり」が登場する場面が減ってしまったのもそういうことなんだろう。「ふかえり」ファンとしてはちょっと残念。いや、そんな「キャラ萌え」的な観点を別にしても、『羊をめぐる冒険』のようなクライマックスの神秘性は今回はもう一つだったというのが正直なところ。

自分なりに総括すると、ゼロ年代村上春樹作品の中では頭一つ抜けて面白いし、物語の推進力もあり、最後にカタルシスを感じさせる作品であったとは言える。ベストセラーになったとはいえ、誰にでも薦められるような作品かというとちょっと微妙だが、『海辺のカフカ』や『アフターダーク』を読むなら、『1Q84』を先に読もうとは言えると思う。

しかし、過去の傑作『羊をめぐる冒険』『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 』『ねじまき鳥クロニクル 』を超えたかというと、個人的にはそこまで到達しているという感じは持てない。それは『1Q84』が結局のところ、青豆と天吾の二人の物語に収束してしまったように読めるところが原因なんだろう。この作品は特定の宗教を描いたわけではないのだが、宗教の持つ「超越的な何か」についてドストエフスキーのように正面から描いてほしかった気がする。そこに物足りなさが残った。

とは言え、読んでいる間どっぷりと作品世界に入り込めるという点では村上春樹はやはりさすがだと思う。本当にBOOK3を待った甲斐があった。