小沢健二は歌った。
いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて生きるのさ
(『愛し愛されて生きるのさ』小沢健二)
僕はそのとき「可笑しいほど」の意味が理解できなかった。彼が彼女を愛する、そして、彼が彼女に愛される。これはきっと幸せなことだろう。そして見方によってはほほえましいことだろう。でも一体どこが「可笑しい」のだろうかと―
先月下旬に出たばかりの『駅から5分』の最新刊を読んだ今、その意味がようやく心底わかった気がする。ある人が別の人を愛する。でも、その別の人はそのまた別の人を愛していたりする。当たり前の真実だが、必ずしも「相思相愛」になるとは限らない。しかし、「相思相愛」にならないからといって、それは不幸なことではない。
人が人を愛すること。それは一途なゆえに美しい。まるで一直線に放たれた矢の軌跡のように。まるで空間の中でまっすぐに伸びるベクトルのように。点Aから点Bへ。点Bから点Cへ。そして今度は点Dから点Cへ…
こんな風に、人間というのものが愛し愛されてそれでも生きていくのは、なんといとおしく、そして可笑しいことだろう。そして、人の営みというものをさらっと描いてしまうところが、くらもちふさこの偉大なところだろう。
- 作者: くらもちふさこ
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2009/11/19
- メディア: コミック
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この巻でもいろいろな人物の生き様が描かれ、誰も彼もしっかりと生きていることがよく分かるけれども、個人的には、圓城君のお姉さんの雛(この巻の表紙)の存在感が光っていると思う。