時刻表なき迷走〜逃亡者イチハシの決定的なミス

市橋容疑者は時刻表さえ読めていれば、まだ数日は捕まらなかったかもしれない。

まず逮捕当日の10日の彼の足取りから。

  • 13時40分 神戸市内からタクシー乗車。
  • 13時50分 六甲客船ターミナルでタクシー降車、乗船受付へ。「今日の沖縄行きは大阪南港から」と言われ、再度タクシーに乗車。
  • 14時40分 大阪南港(写真)でタクシー降車。
  • 17時50分 ターミナル2階待合室で読書。
  • 18時20分 ターミナル2回待合室で居眠り。
  • 18時44分 ターミナル係員に110番通報される。直後に逮捕。

関西エリアから沖縄行きのフェリーは毎日就航しているわけではない。2009年11月の場合、7日・10日・14日・17日・21日・25日の6便のみ。整形施術後の写真が公開されたのが5日夜。写真が繰り返しTVで流れる前に市橋容疑者が行動を起こせば、最短で7日14時に神戸を出発するフェリーで沖縄に渡ることも可能であった。

しかしながら、彼は何らかの理由で7日14時発に乗るべく神戸に行くことはしなかった。フェリーという交通手段を発見するのに時間がかかったのか、それとも決断が遅れたのか、理由は今のところわからない。だが、整形手術後の自分の写真が繰り返しTVで放送されるのを見て焦ったのか、それとも「新幹線で移動しているだろう」という世間の思い込みの裏をかこうとしてか、こう決めたのだろう。「10日の沖縄行きのフェリーに乗ろう」と。

市橋容疑者が六甲ターミナルに着いたのは13時50分。出船ぎりぎりに乗船手続きをすることで、係員に疑念を抱いたり警察に通報したりする時間を与えないという狙いがあったのだろう。だが、ここで市橋容疑者は致命的なミスを犯す。7日のフェリーは14時神戸発だったが、10日のフェリーはそうではない。そもそも大阪南港から出発するのだ。それも23時という深夜に。

大阪南港に行き先を変更した市橋容疑者の様子をタクシーの運転手は「口数が少なく疲れた様子」と証言している。彼は肉体的に疲れていたのかもしれない。が、それ以上に、自分の計画が狂いつつあるのを悟って精神的な徒労感を一気に感じたのではないか。「こんなはずではなかった」あるいは「23時発までどこでどうやってやりすごそうか」と。

14時40分、市橋容疑者は大阪南港に到着する。確かに今日、沖縄行きのフェリーは出航する。だが、もはや出発ギリギリに手続きをすることはできない。だからといって、早めに手続きして乗船していれば、警察に通報されて船上で袋のネズミになってしまうかもしれない。しかし、沖縄行き以外に活路を見出すことはできない。早く23時になってくれ…

彼が時刻表さえ持っていれば、そしてフェリーのページを正しく読んでいさえすれば、こんなところでこんな時間に逮捕されることはなかっただろう。ひとたび船が海の上に出てしまえば、逮捕にもまだ数日を要したかもしれない。整形手術で人相まで変えた割りには、逃亡者としては詰めの甘い最後だった。