見えない敵に向けて〜カフカ『城』

夏の読書ももう最後。カフカの最高傑作と評されることの多い『城』を8月下旬から読み始めていたが、今日、ようやく読み終えた。以下、ネタバレ。

城 (新潮文庫)

城 (新潮文庫)

測量士のKは「城」での仕事のため異国の村を訪れるが、なぜか「城」にたどり着くことはできずに日々を過ごす羽目になる−と、あらすじを書けばこれだけのことであるが、文庫本で600ページ超というボリューム、しかも未完に終わっている。

カフカは「労働疎外」を書いたのかもしれないし、「官僚社会」を予見したのかもしれない。要するに、現在の社会の中で「人間性」が失われていく恐ろしさを文学にしたのだと思う。本当の敵は目には見えない。見えない敵に向けて銃を放つことはできない。誰が自分を苦しめているのかわからない。これが現代だ。その点では、カフカは『変身』や『審判』と通じるテーマをこの『城』でも追求している。

だが、個人的には『審判』の方がまとまっていると感じた。冒頭の唐突な理不尽さも、途中の迷宮のような不気味さも、最後の不可逆的な絶望も、どの点をとっても『審判』の方が上。確かに、文学的構造や全体の世界観さえ分からないくらい、ディテールとプロットの階層が錯綜している『城』の方がカフカらしいといえばそうなのかもしれない。ただ、巻末の解説で前田敬作が書いているような『カラマーゾフの兄弟』と並ぶというほどの文学的意義は、この作品には見出せなかった。