ペンが生み出す小宇宙〜ボルヘス『伝奇集』

ガルシア=マルケスでラテンアメリカ文学に目覚めたので、次はアルゼンチンのボルヘスへ。

伝奇集 (岩波文庫)

伝奇集 (岩波文庫)

人間の頭の中には小宇宙がある。それは人間の内部に存在しているにもかかわらず、果てしなく広大で、気が遠くなるほど悠久な時空だ。そしてその小宇宙の中にちっぽけな人間がいる。

そんな風にボルヘスの作品の小宇宙は、始まりから終わりへ、そして終わりからまた始まりに戻ってくる。まるでエッシャーの騙し絵のように。爆発し、膨張する宇宙は、やがてまた収縮に向かい、大きな熱を蓄えながら収縮する。それは新たな爆発の準備に過ぎないのだ。エンドレス・ボルヘス。エンドレス・エッシャー

ボルヘスの明晰な頭脳は文学的修辞などの技巧を弄さずとも、その構成だけで十分に高い完成度を誇る。あたかも長編の冗長性をすべて圧縮して、エッセンスだけを最短の表記によって短編に圧縮したかのように。「バベルの図書館」とか「円環の廃墟」とか、タイトルから期待される通りの作品だが、素晴らしい完成度の小宇宙だ。

あのスタニフワフ・レムもボルヘスに受けた影響が大きかったことが窺われる傑作。