伝えられなかった言葉〜新海誠『秒速5センチメートル』

新海誠監督の新作『秒速5センチメートル』を渋谷シネマライズに観に行った。

公式サイト:「秒速5センチメートル」
公式ブログ:「秒速5センチメートル公式ブログ」

この作品は、「第一話:桜花抄」「第二話:コスモナウト」「第三話:秒速5センチメートル」という三篇の連作集。内容はネタバレになるのであまり書きたくはないが、主人公(遠野貴樹)は同じで、少年期、青年期、そして大人になってからのストーリーを各話で描く。桜、風、雪などの季節感や臨場感の描写が素晴らしい。圧倒的な映像美を堪能できる。そして…


伝えられなかった言葉、共有できないと分かった未来、叶わなかった夢…。見ていくにつれて、自分の心の奥底に封印していた甘酸っぱい思い出の数々が蘇ってきて、じわりと涙が出てきた。

クライマックスで流れるのは、山崎まさよしの超名曲『One more time, One more chance』。この音楽と映像が渾然一体となる瞬間の連続は、日常の生活では得がたい感動的な体験だ。

コピーは「どれほどの速さで生きれば、きみにまた会えるのか。」―うーん、よく言われるように、男はいつになっても少年のままなのかもしれない。

映像の美しさ、音楽の絶妙さ、そして全編に漂う甘くて切ないテイストは、個人的には岩井俊二の実写作品のいくつかにも通じるものを感じた。

今日は、製作者の舞台挨拶もあり、原作・脚本・監督の新海誠の他、作画監督・キャラクターデザイン担当の西村貴世、音楽担当の天門の3名が、劇場の舞台でこの作品に対する思いを語っていた。どの方も本当に良心的な印象で、なんというか「秘めた情熱」みたいなものを感じた。変にギラギラせず、自分が納得の行くものを作るのだ、みたいなスタンスというか。

ちなみに、劇場は満員で、8割以上が男性か。終了後のロビーはパンフレットを買い求める人で混雑していて、自分も含めて、みんなが心を打たれているように見えた。

昨年のアニメ映画の最高傑作である細田守監督の『時をかける少女』に続いて、日本のアニメクリエーターの底力をまたここに見た気がした。2007年のアニメ映画の珠玉の一作。

ちなみにタイトルの「秒速5センチメートル」というのは、桜の花びらの落ちる速さだそうだ。この春、桜の散るのを見るときは、去年とは違った思いを感じることになるだろう。