ルーツ・オブ・ハルキ〜『グレート・ギャツビー』

いままで「食わず嫌い」だったことを後悔した。これは決して、ギャツビーという男がグレートになるというサクセスストーリーではない。むしろその対極にあるものだ。

グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)

グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)

ストーリーの細かい内容はネタバレになるのでここでは触れないが、雰囲気の繊細な描写、行き違う人間関係、揺れ動く心理、そして名状しがたい不思議な力(陳腐だが「数奇な運命」とでもいうべきもの)に翻弄される登場人物達。その中で地味ながらもしっかりと自己を保持する主人公。

これは、どこをどう読んでも村上春樹のルーツと言える作品だと思う。いま『グレート・ギャツビー』を読んでよかった。そして、それを村上春樹の訳で読んで良かった。

巻末の春樹氏による解説も思い入れたっぷりで、氏が書いたエッセイの中でも最も素晴らしいものの一つに数えられる名文だ。