日経新聞は、キヤノンが大分市にプリンターに使うカートリッジやインクを量産する工場を作ると一面トップで報じた。
しかし、キヤノンのデジカメ・プリンタ事業は好調に推移しているので、このタイミングでの設備投資に特段サプライズはない。しいて言えば、マレーシア、台湾、ベトナム、中国ではなく大分であるという点にニュース性があると言いたいのかもしれない。
だが、中国に関しては、目先の人件費こそ安いものの、品質管理の問題を始め、反日デモに象徴されるような政治リスクが顕在化しているほか、人民元レートについても大幅な調整が迫っている。加えて、違法コピーがまかり通るような特許・著作権に関する法的保護が弱いことを考えると、先端技術の移転を伴うような海外工場は設置しずらい。
…というようなことをキヤノンは一貫して言ってきている。日経の書いているような「製造業の国内回帰が加速しそうだ」というような浅薄なトレンド的発想とは無縁である。御手洗富士夫に先見の明があったということではなく、これはキヤノンの経営哲学なのだ。
もちろん、国内重視は製造業にとって唯一の正解ではない。たとえば、トヨタはこのタイミングでロシアに工場を建設するということになっている。製造のグローバル化を進めて、販売マーケットとして進出先を押さえるというのは、自動車産業がここ30年来行なってきた流れである。この流れは変えようがあるまい。そして、ユニクロに代表されるような衣料品についても、製造を国内に回帰するということは起こりえないと思う。
にもかかわらず、キヤノンの動きが製造業全体を牽引するかのように「製造業の国内回帰」と一般化してしまっては、複雑な世界の実態を見失う。物事を捉えるときには、先入観や偏見は禁物だ。トヨタの例を引くまでもなく、企業によって工場建設戦略は異なると素直に受け止めた方が、将来予想を誤る可能性も低くなろう。
まったくマスコミというものは、何かにつけて日本企業の「横並び的発想」「事なかれ主義」を批判するのだが、横並び的発想から抜け出せず事なかれ主義に陥っているのは、他ならぬマスメディアの側だと思う。
こんな焦点のぼけた記事をリリースする前に、キヤノンやエプソンのプリンターがいま何を競い合っているのかを勉強するべきだろう。
- 出版社/メーカー: キヤノン
- 発売日: 2004/10/31
- メディア: Personal Computers
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