ゲントウキは切ない

ゲントウキの新譜『はじまりの季節』を買った。春らしく新しいスタートを切る曲なのだが、ここでも切ないゲントウキ節が全開。

はじまりの季節

はじまりの季節


下降するコードを奏でるギターのアルペジオだけで曲が始まる。が、4小節を過ぎると、ベース、ドラムス、ハモンドオルガンに加えて、ホーンセクションが一気に入ってくる。ゲントウキらしい温もりのあるバンドサウンドが広がる。と言っても、ビートはややタメ気味で、ホーンも長い音符をゆったりとなぞるアレンジ。とても穏やかで、急くようなところは全くない。

「道端で見つけたのは 南への矢印 いつまでもここにいても 届かない気がしたよ」と始まるAメロでは、メジャーセブンスを主キーと4度上の間で往復するコードに乗って、大切に歌いあげていく。しゃくりあげたり、声を張り上げたり、畳み掛けたりすることは微塵もなく、一つの単語も漏らさずに伝えたいといわんばかりに丁寧。

そしてサビ。

「この街を忘れないように 心に焼き付けたら 急がなくちゃ 行かなくちゃ 終わらない旅が始まった 近づいては遠ざかる日を想いながら どこまでも歩いていく」

出発には別離が付き物だ。だが、それは古いものをあっさりと捨てることでもないし、反対に古いものにしがみつくことでもない。思い出を心に焼き付けて、それで新しい世界へと進んでいく。そんな強い決意を感じさせる。ボーカルの田中潤の歌声は、最高音部では絞り出すようなファルセットになるが、それが切なさを増幅させる。

ゲントウキはメジャーデビューしてもう2年。某社の所属アーチスト達のようにアニメ番組とタイアップしているわけではないから、デビュー後すぐに爆発的にヒットすることはない。が、こういう名曲を送り出し続けていくことで、じわじわと支持層が広がっていくような気がする。そして、彼ら自身が影響を受けたと思われるスピッツのように、ある臨界点を越えたところで一気にメジャーになるような予感がする。いま最も注目しているバンドだ。