『幸服』を鑑賞した

劇団印象の第三回公演『幸服』を鑑賞に行く。出演するのは男二人、女一人の三人芝居で、舞台をアパートの一室に限定し、時間の進行を現実の進行と同じにしたリアルタイム・ドラマの形式。

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日曜日の夜6時からの開演だったのだが、もうすぐ『サザエさん』が始まるだの、7時から夕飯を食べ始めるのに献立は何にするだの、表面的にはリアルすぎるほどにリアルな日常生活の中で時間を進行させつつ、その根底で、通奏低音のように、家族とは何か、個人のアイデンティティとは何か、という問題を深く掘り下げていく。三人の役者さんもそれぞれに個性を持っていて、ときにユーモラスに、ときにシリアスに、場面の空気を適切に作り上げる。加藤信吾さんが見せる全身の表現力、最所裕樹さんが持っている抜群の存在感、そして片方良子さんが台詞に込める生々しいまでのリアリティ。三者三様の魅力で、この芝居を活き活きとしたものにしていたと思う。

知人が照明を担当していたのだが、シークエンスの切り替えにおけるカットイン/アウトの切り立つような鋭さと、感情に入り込むときのフェードイン/アウトの繊細なグラデーションが、完璧なまでに見事な対照をなしていて、演劇における照明の重要性に改めて気付かされた。舞台に魂を吹き込むのは他ならぬ照明の役割ではないか、と思うほどの素晴らしさだった。