日経優秀製品・サービス賞を嗤う

1月5日付の日本経済新聞の朝刊の一面に、「2004年 日経優秀製品・サービス賞」(通称・日経新製品賞)の対象が決まったとの記事が掲載されている。文化・芸術の面で読売・朝日・毎日等のいわゆる総合紙との格差が否めない日経グループとしては、何らかの差別化を図るためにはこの手の製品・サービスの分野でのオピニオンリーダーとなるしかないのだが、掲載された製品を見て、目を疑った。

最優秀賞の「日本経済新聞賞」が、ななめドラム乾燥機「NA-V80」(松下電器産業)を筆頭としており、しかも、記事中の写真ではこの製品だけを掲載している。あたかも、この製品が今回の最優秀賞の目玉だとして位置付けているとでもいうように。

だが、ちょっと待って欲しい。この製品がプレスリリースされたのは2003年8月25日で、商品の発売は2003年11月21日である(詳細は下記のリンクを参照)。

http://panasonic.co.jp/corp/news/official.data/data.dir/jn030825-1/jn030825-1.html

リリース当初の2003年から、このななめドラムを用いた洗浄・乾燥方式は相当話題になっていた。というのは、この前段として、サンヨーが商品化した縦型ドラム洗濯機のヒットがあり、松下のこの商品は「洗濯槽/ドラムの回転方向は、横がいいのか縦がいいのか」という技術論争に対する一つの回答として提示されたからである。言い換えると、この商品の意義は2003年において最大であったといっても過言ではない。

それを今頃になって、一昨年の商品に「2004年の日経新製品賞」という冠をつけて表彰式を行うというのは、実に滑稽なことだと思う。このななめドラムの商品が出た頃の日経新聞が何をしていたかというと、「デジタル家電が日本経済回復の鍵」だとまで言っていたわけで、相変らず現実をよく見ないで世論を誤った方向に誘導しようというスタンス*1には失笑せざるを得ない。それにしても、2004年の受賞製品に、日経があれだけ煽った「デジタル家電」が一つも入っていない*2というのも、同社の無節操ぶりをよく表していると言える。

この手の賞は、多かれ少なかれ、しょせんヒット商品の後追い・追認であるという謗りから逃れ難いという宿命があるけれども、プレスリリースから1年半近くたっての授賞というのは、オピニオンリーダーとしての資格を自ら放棄しているに等しい。現在は、マスコミよりも消費者の方がよっぽど先に進んでいる*3ことを如実に表していると思う。

では、一方で、日経が優れた技術の意義に対する深い理解力を有しているのかといえば、どうもそちらの方も覚束ない。今回の授賞理由を見る限り、洗濯機の洗濯槽/ドラム回転軸の技術論争には一言も触れておらず、新技術に対する理解や啓蒙に情熱があるということもなさそうである。

結局、先見性や速報性という点で圧倒的な優位にあるわけでもなく、内容の深さという点でも見るべきものも乏しい、というなんとも中身の薄い賞であり、ある意味で、いまのマスコミが置かれている状況を象徴しているのではないだろうか。こんな賞、授賞する側の自己満足以外になんの意味もないように思われる。まあ、そういう賞というのは、少なからずこの世の中にはあるのだろうけど。

*1:世論を誤った方向に煽った典型例としては、もちろんバブルの時期の過度な楽観論とデフレの時期の過度な悲観論が真っ先に挙げられる。

*2:入賞したiPod miniを「デジタル家電」であると強弁しない限りは。

*3:潜在的な購買者は、価格.com2chのような掲示板でのユーザーコメントを取捨選択した上で参考にしている、少なくとも私は。